サルビアのきもち

□八
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ウォーターセブンを出港したリトルモビーはフロリアン・トライアングルという霧深い海域を抜け、シャボンディ諸島に向かう前にとある無人島に立ち寄っていた。
予め旅立つ前にクロエから生薬の原料となる特殊な茸を採取してきて欲しいと頼まれていたからである。


「珍しいね、エースが行かないなんて。」

「………俺だって反省ぐらいするんだよ。」


上陸をする為に船番を決める段階になってエースが突然「行かない」と言い出した。
理由を聞けば、この航海においての自身の行動に多少なりとも反省をしたらしい彼は自ら船番を買って出るつもりの様で。


「お前ェがそれでいいなら、任せるよい。」


そんなエースに対し、マルコは思いの外あっさりと承諾するとさっさと船を下りていった。
ナツメも少しの間思案していたが、やがてマルコの後を追って船を下りた。









ナツメの背丈程もある背の高い葦の様な草を、前を歩くマルコがナイフで切り倒しながら進む。少しでも遅れるとはぐれてしまいそうなので、ナツメはマルコの不死鳥色のサッシュの端を掴みながらそれに付いて行く。
二人一組で探索している為、少し離れた所からはナミュールらしき悲鳴は聞こえるものの視界に入る仲間はマルコだけなので、こんな所で迷子になるのだけは絶対に避けたい彼女は無意識に彼のサッシュを握り締めた。
それに気付いたマルコはチラリと彼女を見やると苦笑いを浮かべた。


「心配しなくても、置いてきゃしねえよい。」


安心させる為にそう声をかけたマルコにナツメは少しだけホッとしたような顔をした後、「あ!」と声を上げた。


「…?どうしたよい。」


マルコが首を傾げて彼女を覗き込んだその瞬間。


キョエエエ!!


上空から突如飛来した極彩色の巨鳥が、マルコの金髪をむしり取ろうと鋭い鉤爪を振りかざして急降下してきた。


「っ危ねえよいっ!」


言うなりナツメの頭を抱え込んで回避したマルコは、襲撃に失敗して上空を旋回する巨鳥に向かって怒りのオーラを迸らせながらガンを飛ばした。
もちろん、


「やんのか、オラ。」


という柄の悪い台詞付きで。
するとどうだろう。巨鳥はびくりと身体を震わせた後にまるで慌てたように降りてきてそのデカイ頭をマルコに擦り寄せたのだ。


「さ、流石は鳥の王様!」


それを見たナツメが感激したように声を上げると、マルコは満面の笑顔に青筋を浮かび上がらせながら、


「何回言ったら分かるんだよい。俺ぁ不死鳥に変形出来るだけで、鳥じゃ無ェよい!」


と彼女にデコピンをした。そして、


「一体何だって急に襲って来たんだろうねい?」


と首を捻りながら周囲を見渡す。
そんなマルコに、地味に痛む額を涙目で擦りながらナツメは少し離れた所にある林を指差した。


「多分、あれと間違われたんじゃないですか?」


彼女が指差したその先には、一昔前には「果物の王様」と呼ばれた黄色く輝く南国果実がたわわに実っていたのであった。











「有った有った!隊長、これじゃ無いですか?」


額を2ヶ所赤くしたナツメが地面に生えた物体と図鑑を見比べ声を上げた。


「ふむ……『バナナモドキ』……こいつだねい。」


クロエに頼まれた生薬の原料になる物体は、バナナの木の根本に稀に生えるというモンキーバナナそっくりの茸だった。
マルコがその茸をつまみ上げているその光景が面白すぎて、ナツメは顔をひきつらせながら耐えていたが、相変わらず鋭いこの隊長は彼女が何か口に出す前に


「……俺ぁ果実でも無ェよい。」


とボソリと呟いた。





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