サルビアのきもち

□七
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世の中には「多勢に無勢」という言葉があるが、その言葉は自らの上司には全く当てはまらない事を、ナツメは目の前で見せつけられた。

リトルモビーからヒラリと降り立ったマルコに、頭領を除いたフランキー一家は一斉に飛び掛かった。
だがマルコは両腕を翼に変えるとヒラリとそれらをかわし、上空から急降下とともに踵落としの要領で一気に蹴散らした。
その蹴りのあまりの威力に、フランキーの子分達は纏めて数人ずつは飛ばされていく。また、ナツメが触れた時にはあんなにフワフワと柔らかだった翼も、今は覇気を纏っているのか羽ばたく度に敵を弾き飛ばしている。
そして、大した時間も立たぬうちに、その場に立っているのはあっという間に頭領のフランキーだけとなった。


「ま、まさしく一騎当千……」


マルコが戦っているさまを間近で見るのは初めてなナツメは唖然として呟いた。
エースははなからマルコが街のチンピラごときに負けるなどとは毛ほども思っていなかったので、そんな彼女とは正反対に、もっぱらウズウズと身体を動かしたい衝動に抗っている。


「……で、誰がヒョロイって?」


マルコが人型に戻した腕を組んでフンと鼻を鳴らしながらフランキーを見据えた。
フランキーは頭領らしく近場の材木に座って子分達の戦いを見ていたのだが、マルコのその一言に指をバキボキと鳴らしながら立ち上がると、


「…あァ、見くびって悪かったよ、兄ちゃん。……だが、俺の可愛い子分どもを痛め付けた落とし前は、きっちり着けて貰うぜェ?」


とニヤリと口角を引き上げながら宣言した。










フランキーは粗野な見た目の割には頭の回転が早く俊敏だ。その上でパワーファイタータイプなので、何も知らない人間がこの現状を見れば明らかにマルコが不利に思うだろう。しかし、マルコの細くしなやかな身体から繰り出される蹴り技が思いの外威力がある事を、フランキーは子分達とマルコの戦いから見抜いていた。
だがそれでもフランキーは負ける気などは一切無かった。
何故ならフランキーは自身の外見が相手にどのような印象を与えるかも熟知しており、それを逆手に取った戦法が得意なのだから。製図から大工仕事までをこなす彼の頭脳は伊達ではないのだ。


「ウエポンズレフト!」


ドォン!ドォンドォン!


フランキーの左腕から放たれた砲弾がマルコに向かって一直線に飛んで行く。
それを常と変わらず落ち着いた様子で眺めるマルコは、自身に直撃する瞬間に翼を広げそれらを地面に叩き落とした。


「ストロングライト!!」


だがマルコが砲弾を防ぐ事など想定の範囲内、むしろ陽動のつもりで放っていたフランキーは立ち上る煙が治まらぬうちにすぐさま距離を詰めると、右腕をまるでロケットパンチの如く撃ち放った。


「…なかなか面白い攻撃だねい。…だが、」


もうもうと煙る中から眩い程の青を纏った彼、不死鳥マルコはその姿を現し呟くと、半獣のその身を軽やかに宙に踊らせ、飛んで来たフランキーの右腕を受け流した。そしてそのままその右腕を蹴り上げる。


「……甘ェよい。」


右腕に引きずられる様に体制を崩したフランキーはそれでも転倒を避けるべく両足を踏ん張って耐える。
しかしマルコはフランキーの右腕が身体と繋がっている事を利用し、鳥足の鍵爪を鎖に引っ掻けるとそのままフランキーを空中に投げ、次いで踵落としの要領で地面に叩き落とした。






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