サルビアのきもち

□五
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明日の昼頃にはウォーターセブンに到着するだろうという日の夜、ナツメの部屋をマルコが訪れた。
マルコは持っていた紙袋を彼女に差し出すと口を開いた。


「ナツメ、ウォーターセブンは政府施設に近いから、念の為に明日はコレで女装しろよい。」

「…ナチュラルに失礼なのやめて下さい。」


元々女性である彼女に向かって女装しろとは、この1番隊隊長は肝心な所で気が利かないオッサンである。
しかも不満顔で抗議するナツメに向かって更に


「なら普段からもう少し色気ある格好しろよい。」


などとしゃあしゃあと言うものだから、彼女はますますぶすくれながら紙袋を開けた。
中には以前カラオケ大会で使ったカツラと一緒に、黒いプリーツで裾に白いレースがあしらわれたミニスカートと白のパニエ、胸元にギャザーがたっぷり入った白いブラウス、赤系チェックのネクタイとシュシュが二つ、さらにはヒールの編み上げブーツまで入っていた。


「……これ、誰のチョイスですか?」

「サッチだよい。」

「あンのフランスパン…何の嫌がらせだ……!」

「??なんか駄目なのかよい?」


紙袋を掴んだまま怒りにプルプルしている彼女に、若干ビビりながらもマルコは思ったまま疑問をぶつける。
ナツメはカッと切れ長の目を見開くと、ベッドの上に問題の服を並べて指差した。


「何でスクールガール風!?しかも若干ゴスロリ入ってるし!更には何か?シュシュが二つって、ツインテもしろ、と!?三十路間近の私に!?」

「………よ、よい。」

「しかも、このシャツ『萌え袖』じゃ無いですか!あのオッサンそんなに気に入ったのか『萌え袖』!!」

「……入れ墨が隠れて丁度いいじゃねぇかい。」

「それよりも何よりも、恥ずかしいわ!!」


女のファッションなんぞマルコにはさっぱり分からないが、とにかくナツメはこの「サッチプロデュースセット」が激しく気に食わないらしい。
マルコの脳裏にこの服を選んだ時のサッチの


「これ着たナツメちゃん、か〜わい〜だろうなァ!もしかしたら、気に入っちゃって着て帰ってきちゃったりとか!?」


とデレデレと妄想に浸る気色悪い姿が今の怒る彼女にオーバーラップしたが、生憎とヤツの思惑とは正反対の反応をするナツメの姿に、


(…サッチのアホさはとどまるところを知らねェよい。)


と改めて思った。












翌日、予定通りにウォーターセブンに到着したリトルモビーは島の裏側にある岬に停まった。


「…まずは換金と見積りだねい。」


マルコが事前に決めていた役割分担を発表する。
それによると、マルコとナツメは換金所へ、ナミュールとエースとシムはガレーラカンパニーという造船会社に見積り依頼に、ワーズとクルー達は船番、という分担だ。
だがそれに対してエースは


「えー?俺もナツメと一緒がいい!いつもマルコばっかりずりぃだろ!」


と不満気だ。だがマルコには


「お前ェが換金所とか、悪ィ予感しかしねぇよい。」


と相手にしてもらえず、しかもシムとワーズはそれに無言でウンウンと頷いている。
エースは「なんだよそれ!」と頬を膨らませてブーブーと不貞腐れた。
そんなエースに後ろから声がかかる。


「…仕方ないでしょ。私はマルコ隊長の補佐役なんだから。」


その声に振り向いたエースはいつも通りに姉に抱き付こうとして絶句した。
それもそのはず、昨日あれだけ文句を言っていた彼女は、代わりの服も無くまた元来の律儀な性格もあって仕方なく「サッチプロデュースセット」を着用して甲板に現れたのだから。


「……相変わらず、化けるよなぁ。」


ワーズが上から下までジロジロとナツメを見回した後に溢すが、即座に頭上のカモメからバードミサイルをくらい「すみませんでした!」と半泣きで船内に消えた。
その間もずっと絶句しっぱなしだったエースは、ワーズの閉めた扉の音でようやく我に帰ると興奮したように彼女を抱き締め、再びマルコに向かって、


「マルコずりぃ!やっぱりずりぃ!なんでナツメにこんな可愛い格好させてんだよ、このエロパイン!!」


と噛み付いた。
いつもの事ながらの理不尽な言われ様にマルコは顔をヒクヒクとひきつらせながら、


「それはサッチの仕業だよい!大体俺ぁエロでもなけりゃパインでも無ェよい!!」


とエースの頭上に拳骨を落とした。
その後もぎゃんぎゃん言い合いをする隊長ズから距離を取ったナツメはため息をつきながら、


「全っ然褒められてる気がしないんですけど…。」


と呟き、隣にいたナミュールに、


「まぁ、ほら、なんだ。………三十路前にやれる格好をやっておく、って事で!」


と傷口に荒塩をすり込む勢いで無駄に明るく慰められ、がっくりと肩を落とした。





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