サルビアのきもち

□三
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「えー、次に…8番隊より出ている外輪船リトルモビー1号の修理に関してだよい。…ナツメ。」

「はい。」


マルコに呼ばれたナツメは立ち上がると、手にしていた資料を一部ずつ各隊長に配って回る。
現在、会議室では隊長会議が開かれている。ナツメは隊長では無いが、1番隊隊長補佐であり、また事務員でもあるので会議に参加している。
一週間程前に松葉杖が取れ身軽になった身体で資料を配り終え、最後にウトウトと船を漕ぐエースの頭を算盤で軽く小突いて起こすと、再び席に戻る彼女。
それを確認するとマルコは再び口を開く。


「詳細は1頁に書いてある通り、先のクレバー海賊団との戦闘で損傷した事もあり…」

「ク、クレバー…ぷぷっ…」


律儀に説明を始めたマルコだが、それを聞いていたサッチが耐え兼ねた様に吹き出した事で一旦説明が止まる。


「…気持ちは分かるが、いい加減慣れたらどうだ。」


ビスタが半ば呆れた様に口にしたが、サッチはかの海賊団…言わずもがなナツメを拐い拷問した事で、むしろ墓穴を掘り白ひげ海賊団に再起不能なまでに叩きのめされた、あの海賊団の事を思い出して笑いが止まらない。
なにせ、ナツメが言うには聞いてもいない事まで勝手にベラベラと喋り、結局計画の全てを暴露してしまったらしい奴等は、自称「クレバー」海賊団なのだそうだから。
俯きリーゼントが机に付いた状態で肩を震わせるサッチをため息とともに一瞥すると、マルコは説明を再開した。







「…とまあこんな感じで、本格的に壊れる前に一度ウォーターセブンに行った方がいい、というのが船大工達の見立てだよい。」

「予算は大丈夫なのかぁ?」


マルコの説明にラクヨウが挙手して質問すると、それまで黙っていたナツメが帳簿を開き、


「…前回の決算の黒字に加え、クレバー…ぶふっ…海賊団、から回収したお宝もかなり有ったので、問題無いかと。」


と回答する。
それに対して、今度はハルタが挙手をして、


「1号って事はナミュールが行くんでしょ?ウォーターセブンでカモられるんじゃないの?」


と言うが、それを聞いたナミュールが「おい、どういう意味だよ。」と立ち上がった。
それを片手で制すと、マルコは再び口を開く。


「やめろい。…ナミュール、仮にお前じゃ無くとも、あそこの換金所はレートが良い代わりに、かなり上手く交渉しねェと足元見られるよい。」


だから、と言って一呼吸置くとマルコは


「親父とも相談したんだが…」


と続けた。











「では、イゾウ隊長、サッチ隊長、すみませんが事務室をお願いします。」


ナツメは自分がいない間に最低限必要な書類処理について説明すると、立ち上がって備え付けのポットからコーヒーを注いで二人に差し出した。


「ありがとよ。」


そう言って受け取るイゾウとは対照的に、サッチは先程の作業の説明からずっと事務室の隅で膝を抱えて座っている。


「…ナツメちゃんが……マルコと……俺様のオアシスが……マルコと……、」


ブツブツと呟いているサッチは、どうやらウォーターセブンに行くメンバーから自分が除外された事にショックを受けている様だ。
今回ウォーターセブンに行くにあたって選ばれたのは、まず船を主に使用するナミュールと8番隊は勿論の事、隊長に就任したばかりゆえ「勉強してこい」という意味でのエース、エースの部下代表でシムとワーズ、交渉担当にマルコ、同じく交渉&数字に強いからという理由でナツメ、というメンバーだった。
ナツメは観光ガイドの雑誌でしか見た事の無いウォーターセブンに行けると有って大喜びしているし、エースもナツメと遠出出来るのならと満更でも無い。
マルコはマルコで元々「仕事」としてしか捉えて無い為に至ってアッサリとしたものだ。
だがサッチはこの人選に対して、エースはともかくマルコとナツメが一緒という事に激しく抗議した。
いわく、


「マルちゃんズルい!ナツメちゃん独り占めなんてズルい!腐れバナナのくせに!お兄ちゃんは許しません!」


との事だ。そしてその場でマルコから跳び蹴りを食らい失神したサッチは、気が付いてから今までずっと体育座りでブツブツ言っているのだ。


「…ナツメちゃんと…二人………二人で、旅行………旅行?………ハネムーン?………ぬわあああ!マルコ、許せん!!」


不意に何か激しく飛躍した想像をしたらしいサッチは突然立ち上がると、血走った目でデスクで仕事中のマルコに掴みかかり、再び今度は急所に蹴りを入れられ泡を噴いて失神した。


「……どうします、これ。」


股間を押さえたままピクピクしているサッチを指差してナツメが問えば、イゾウとマルコは口を揃えて


「「ほっとけ。」」


と切り捨てた。




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