サルビアのこころ

□玖
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エースがモビーディック号に乗せられてから、早くも一月が過ぎた。
彼が白ひげに返り討ちに遭った回数は既に50を優に越え、しかしいまだ諦める気配はなく順調に突撃回数を増やしている。


「毎日毎日たいした根性だな、あいつ…」


ビスタが自慢の髭を撫で付けながら関心したように、だが面白そうにニヤリと笑う。


「多分、自分で納得行くまでやりますよ、彼。」


以前エースと会話した時の事を思い返しながらナツメが言うと、隣で一服していたマルコが


「根性っつーか、意地っつーか…。」


と少し呆れた様に呟いた。
ナツメは甲板の隅で項垂れているエースを遠巻きに眺めながら、


「若さ、ですよねー。ああいう無鉄砲さって。」


とマルコの手から煙草を一本拝借して火を着けた。
ビスタが「ナツメだってまだ若いだろう」と言うから、


「いや、もう四捨五入したらこっち側ですからねぇ。」


とマルコを指さしながら言うと、


「そのマルコは四捨五入したらビスタ側だなぁ。」


と後ろから来たイゾウがクツクツと笑いを噛み締めている。
マルコはと言うと、歳の話題にはあまり触れたくないらしい、苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。











エースが更に突撃回数を伸ばしている間も、白ひげ海賊団は平常運転で縄張りの島から島を航海して回り、ナツメはそれに便乗して情報収集していた。


「…え?降りてもいいんですか?」


ある日の事、いつもの如く立ち寄った島で久々にナツメに上陸許可が下りた。
何でもこの島はログが溜まるのに一週間かかるらしく、その間の一日だけ上陸してもいいとの事だ。


「ああ。ただしいくら治安が良くても一人じゃ危ねぇから、今日だったら非番だから付き合ってやるよい。」


ナツメの部屋の扉の前でそう言ったマルコは、彼女が断る訳が無いのを分かっているので「支度しろい」と腕組みして待っている。
お礼を言って、いつもの白シャツと黒パンツの組み合わせに、履いているグラディエーターサンダルを歩き易い様にブーツに替え、以前違う島で買った財布を小さめのヒップバッグに入れて手早く準備完了。


「………しかし、色気が無い格好だよい。」


そんなナツメを見て、マルコは呟いた。
だがナツメは気にした風も無く、


「色気振り撒きたい相手が不在なのに、めかし込む必要が無いです。」


と切り返す。いつもながらのその男前な発言に、マルコはいつかの様に「変な女だよい」と呆れた。
少なくともマルコが知っている「女」という生き物は着飾る事や光り物が大好きだ。
だが目の前の彼女を飾るのはせいぜい首からチェーンでぶら下げている指輪位で、しかもこの指輪も以前聞いた話では旦那から結婚の証に贈られた物で
、ただ単になくさない様に下げているだけ、という話だったはずだ。
ナツメは一応様々な雑用の仕事を請け負っているので、毎月少しだが現金を支給されている。
だが彼女はそれの殆どを必需品を購入する事に使うだけで、女が好きそうな小物やアクセサリーを買ったりしない。
服ですら、最初にキャサリンから貰った物の他に、実用的なシャツやパンツを数枚と冬用の上着を書い足しただけだ。
かと言って特別男勝りな訳でも無く、時々女性らしい一面を覗かせたりもする。


(……変な女だよい。)


マルコは心の中でもう一度呟いて、彼女を伴い町へくり出した。





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