サルビアのこころ

□漆
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こぽり、こぽり。


揺らめく青い世界を眺めながら、ナツメは沈んでいく。
本来泳ぎが得意だったはずなのに、着水した瞬間から身体の力が抜けてしまい、指一本も動かせない。


(ああ、…これが悪魔の実の「海に嫌われる」というやつか…)


そう漠然と考えながら、沈む自分の身体。


(でも、なんだろう…。嫌われる、というよりは、呼ばれているみたい……。)


全ての母なる海へと、帰っておいで。
そう、言われているような…。












目を覚ましたナツメは、視界一杯に広がる木目の天井をぼんやりと眺める。


(……デジャブ。)


そんな事を考えているうちに、ハタと気が付いた。
そしてガバッと身体を起こすなり、


「あああ、危なかった!私、『向こう岸』に呼ばれてた?!」


そう言って、危うく三途の川を渡る所だったと早鐘を打つ心臓に、確かめる様に手を置いた。


「………よーい?」


一週間ぶりに目を覚ましたナツメのそんな奇行に、付き添ってくれていたらしいマルコが、椅子から仰け反った状態で呟いた。
それでようやく自分の置かれた状況を少しだけ把握したナツメは、マルコに向き直ると改めて口を開いた。


「おはようございます!」

「………おは」


何故か無駄に元気に挨拶をする彼女に若干引きつつ、マルコも挨拶し返そうとしたのだが、彼独特の語尾である「よい」と被る形で、外からドカン!やらバキッ!やらギャハハハ!やらが聞こえてきて、ナツメは目を丸くする。
マルコはマルコで、額に手を当てて「またか」とばかりにため息をついている。
一体自分が眠っている間に何が起こったのか、皆目見当がつかないナツメは首をひねるばかりである。








マルコは事の起こりから順に説明してくれた。
まず、海に落ちたナツメを助けてくれたのは8番隊のナミュールという魚人の隊長らしい。
彼が率いる8番隊は外輪船を拠点にしている事が多く、ナツメがモビーに来た頃には本船と並んで航海していたのだが、その後すぐに白ひげから用事を言い渡され、フォッサ率いる15番隊と傘下の海賊の元に行っていた。
そしてその帰り道、付近の島に懇意にしている王下七武海のジンベエが寄港している事を知り、ならば挨拶をと立ち寄った。
するとその島では、最近新聞を賑わせている「スペード海賊団」の船長である「ポートガス・D・エース」というルーキーとジンベエが戦いを繰り広げているではないか。
ナミュールはルーキーごときが七武海に喧嘩を売るとは何事かと、近くにいたスペード海賊団の船員を締め上げた。
すると驚くべき事に、ルーキーの要求は「白ひげに会わせろ」というもので、かつ七武海のジンベエ相手にもう三日も戦っているというのだ。
ナミュールは「これはおもしろい事になった」と思った。
間違ってもジンベエがルーキーごときにやられる事などあるはずも無いが、しかし三日持ちこたえているだけでそのルーキーも大したものである。
これは親父に報告せねばならない、とナミュールは外輪船にいたフォッサと部下達に島で待機する様に言うと、船よりも早い自慢の泳ぎで一目散にモビーに向かった。


「…で、全速力で泳いで来たら海王類を驚かしちまったらしいよい。」

「あー…それであの海王類は急に浮上してきたんですね。」


なるほど、と頷くナツメ。
ナミュールは海王類よりも親父!と、さっさとモビーに上がろうと海中から船縁に近づいた。
その時たまたま落下してきたナツメを発見し、「やべ…俺のせいか?…親父に殺される!」と思い、ちょっと格好よく彼女を救出しつつ登場し、ちょっと格好よく(強調)海王類を倒したらしい。


「はぁ…。で、そのナミュールさんは今…」

「『ジンベエ親分を送ってくるから、後よろしく☆」だとよい。」


…ナミュール、逃げた。


「んで、助けられたは良いがお前ぇは大量に水を飲んでいてな。今までの疲労も有ったし、まあ内から外から海に浸かった状態だったから、一週間も寝込んでたんだよい。」


どっか痛い所とか苦しい所とかは無いかよい?と言いながら、マルコは少しだけ心配そうにナツメを見やる。
だがナツメははからずもたっぷり休息を取れたせいか体調も良好で、むしろ寝すぎて身体がギシギシ軋んでいた。
そしてそれよりも、まず彼女には先程から気になって仕方ない事がある。





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