サルビアのこころ

□弐
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決意を秘めたマルコが再び医務室を訪れると、出迎えたクロエが「さっき目を覚ましたわ。」と告げる。
ならば話は早い、とカーテンで仕切られたベッドうちの一つに断りもなく立ち入る。
そんなマルコの姿に数人のナースは眉を寄せるが誰も口出ししないのは、マルコがこの海賊団に於いて白ひげの右腕的な存在が故だ。


「……体調はどうだよい。」


ぶっきらぼうに告げる男に、女…ナツメは視線を上げる。


「…問題ありません。…ええと、……私はナツメ。春日ナツメです。…貴方は?」


泣く子も黙るかは分からないが、世に名高い不死鳥マルコを前に、全くと言っていいほどに無表情に問う彼女に些か面食らいつつ、「俺ぁマルコだ。」と告げた。


「まるこ…さん。」


確認する様に呟いた彼女をじっくりと観察する。
髪こそ長いが切れ長の理知的な目は凛々しく中性的で、服装によっては少年とみまごう様な容姿で、どこか掴み所の無い印象だが、かと言って我々に危害を加える程の「何か」を持っている風でもない。
結果、長年荒くれ男を相手にしてきたマルコの勘は、彼女を「ただの女だ」と判断した。
ならば話は早い。

マルコは、彼女…ナツメに悪魔の実の事や自分達白ひげ海賊団の置かれた情況、協力して欲しい旨を手早く説明した。

もちろん、断られる事など想定の範囲内だ。

この物騒なご時世、どこの世界に突然出会った海賊…無法者に身を削って手を貸す馬鹿がいるのか、そんな者がいやしない事などマルコにだって分かっている。
だが、ビスタに言われた様に、例えポーズだったとしても本人への「意思確認」は必要なのだ。

だから、ふいに反って来たナツメの返事には、間抜けにもマルコは大口を開けて放心する羽目になったのである。


「…はぁ。分かりました。」

「やっぱりそうかよい。まぁ仕方無ぇが……………ん?」

「はい?」

「分かりました?…まさか了承って事かい?」

「はぁ。何だかよく分からないんですが、その白ひげ?さん?という方の治療の為に、私の血液が必要なんですよね?まぁ、構いませんよ。」


臓器提供意思表示カード持ってますし、とマルコにとってはわけの分からない言葉を呟きながら、ナツメは一人でうんうんと頷いている。
むしろ事態を飲み込めていないのはマルコの方で、先程からぽかんと口を開けたまま放心している。
彼からしてみれば断られる事前提の申し出だったのだから、当たり前と言えば当たり前の反応だが。


「……いいのかよい?さっき初めて会った人間にいきなり『血ィくれ』って言われてんだよい?」

「はぁ。」

「俺達、海賊だよい?」

「……死なない程度の量でいいんですよね?」

「当たり前だよい。そこまで非人道的じゃねぇよい!」


海賊が人道を語るなぞ、端から見ればコントの様なやり取りだが本人達は至って大真面目である。


「別に死ぬ訳でもなし、困っている方がいるのなら出来る事はするのがむしろ人の道では?」


ナツメは心底不思議だと言わんばかりの眼差しでマルコを見つめた。
彼女のその様子にすっかり毒気を抜かれた1番隊隊長は、どかりと疲れた様に傍らの椅子に腰掛けため息をついた。


「……お前、変な女だよい。」

「はぁ。よく言われます。」


先ほどと何ら変わりない、抑揚に乏しい声色で返事をするナツメにマルコは呆れを滲ませた声で、そーかよい、とだけ答えた。




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