兎耳のアイリス
□その13
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ごう。
吹き付けた強い風は、丸窓の枠からギシギシと不快な音を発生させる。
窓の外は吹雪だ。
空は重々しい鼠色の雲で覆われ、こころなしか圧迫感すら感じさせるように低い。
いつもの通り縄張りを見回りつつ、治安の悪い島を併合して回っている白ひげ海賊団は、現在冬島の海域を航行していた。
「………それで、バカ息子どもは上手くやってやがるのか?」
「ああ。ハルタは早速隊内のクルーを小隊に分けたし、キング・デューはクルーの筋トレに力を入れてるよい。イゾウとクリエルは予算と弾数のバランスに苦戦しているようだが……。」
船長室にて特製の杯で酒をあおる白ひげに、マルコがペラペラと書類を捲りながら報告をしている。内容は新しく隊長に就任した面子の仕事ぶりのようだ。
「まぁ、実務に関してはそう大きな問題は無さそうだよい。ただ、………。」
「………ただ、何だァ?」
「書類仕事が、どいつもこいつも苦手なようでねい……。」
とほほ、とでも言うように肩を落としたマルコは、今朝方発見した目の下に出来た隈を思い出しため息を溢す。資材や金銭の管理を各隊長に割り振ったものの、最終的にそれを纏めるのは彼の仕事だ。隊長達からの書類が遅れれば、それだけ彼の仕事も遅れてしまう。しかし不慣れな新任隊長達を急かしてはなるまい、とマルコもまた堪えているのだ。今のところは。
「そりゃあ仕方ねえなァ、グララララ!」
愉快そうに笑う白ひげだが、彼だって若い頃は下っぱの経験があったのだ。だからこれはある種の登竜門だろう、と考え口出しはするつもりが無かった。
「それと、2番隊だがねい……やっぱり隊長はいらないそうだよい。」
「………まァ、そうだろうなァ。」
「上手く回ってるから、そのままでも問題は無いがねい。」
以前からあった2番隊は長らく隊長が不在だ。そのため今回の再編で新しい隊長をという話も上がったのだが、2番隊のクルー達はそれに「否」と答えた。そこには様々な思惑があるのだろうが、白ひげも、マルコもまた仕方ないという事で片付ける。
「まァ、出来ねえ様なヤツに任せたつもりは無ェんだ。そのうち上手くやるだろうよ。」
先の新任隊長の件だろう。杯を再びなみなみと酒で満たした白ひげは、そう言うとグイッとあおった後に再びグララと笑ったのだった。
「………凄いゆきー……。」
窓の外の吹雪を見て、ミラはぽつりと呟いた。
船内の空気は暖かさで満たされているものの、薄暗く曇った空とビュンビュンと吹き付ける風に乗って躍り狂う雪は、こうして見ているだけで寒々しい気持ちにさせる。もちろん幽霊であるミラは、気温が高かろうが低かろうが別段どうという事はない。だが視覚的な寒さはやはり感じるらしく、精神的な翳りも相まってぶるりとひとつ身を震わせた。
「本当さねェ。激し過ぎて、風情もあったもんじゃねェよ。」
ミラの台詞を受けて、自室の文机に向かっていたイゾウは振り向くと、窓を見やり呆れ気味に答える。
書類作業も一旦休憩だ、とばかりに立ち上がった彼は、室内にある茶箪笥の引き出しを開け茶の準備を始めた。
「あ、私も飲みた〜い。」
「はいよ。干菓子もあるが食うかい?」
「いただきま〜す!」
流れるような動作で動くイゾウを眺めながら、ミラは炬燵の上に置いてあるコンパクトをつつく動作をする。
連日のキッチンでの仕事に加え、隊長業務である書類作業もこなすサッチは相変わらず多忙だった。ようやくキッチン作業をシフト制にする計画が形になりつつあるものの、隊長である彼は一回の休みも取らずに仕事に明け暮れている。その為生活も不規則で、しばらくイゾウの元にいるようにと言われたミラは、渋々と頷くしかなかった。
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