サルビアのうた

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さらさらさら。


逆さまにしたブーツからこぼれ落ちる砂を眺めながら、エースはぼんやりとしていた。
モビーを旅立ってから、随分時が経った。ナツメは、サッチはもう回復しただろうか。…二人とも、自分が何も言わずに発った事を怒っているだろうか。


『当たり前でしょ!何で待っててくれないの?』

『当たり前だってんだ、一人で突っ走りやがって!』


脳裏に二人が頬を膨らませて怒っている様がありありと思い浮かんで、エースは苦笑いを溢す。
けれどそれでも、ティーチを追うこの旅を止めようとは思わない。
エースにとって、この旅は自分なりの責任の取り方だし、使命だとも思うからだ。


「少しだけ昼寝したら、また行くか。」


ひとりごちたエースは、岩礁に繋いだストライカーからちょうど良さそうな岩に飛び移ると、ごろりと横になり寝息をたてはじめた。





暫く後、彼にしては珍しい程に短い昼寝の後、再びストライカーを走らせたエースは長閑な島に辿り着いた。田舎町、というよりは村という表現がぴったりなその島は昼時という時間帯も相まってのんびりした空気の中にも活気を感じる。


「…腹、減ったな。」


普段から姉に言われていた、「上陸する時は上着を着なさい」という言いつけを守って羽織っていたシャツに半分だけ隠れている腹をさすりながら、エースは辺りをキョロキョロと見回した。
田舎ならではの食堂といった体の店が数件あり、そのどれからも食欲を刺激する匂いが漂っている。さてどの店にしようか、と涎を垂らしたエースは立ち止まった。


……ドンッ!!


そこに、後から勢いよくぶつかる何か。


「あ?」


その程度でよろける程ヤワではもちろんないエースは、不思議そうな表情を浮かべると自分にぶつかったであろうその大柄な人物を見上げる。


「おいおい、兄ちゃん余所者か?ヘッドにぶつかっといて、挨拶も無しか?」


すぐに、大柄な男の後ろにいた取り巻きらしいチンピラが一歩前に出るとエースにそう絡み出した。だがエースはヘッドと呼ばれた男を少しの間黙って見据えた後に、ニカッと笑顔を浮かべると、


「悪ィな、急に止まっちまってよ!」


と片手を上げて謝罪をし、そのまま歩き出す。
チンピラ達は一瞬だけ呆気に取られたような顔をしたものの、すぐにギャハハと下品な笑い声を上げた後、エースを取り囲んだ。


「おいおい兄ちゃん。俺達のシマに勝手に入った上にヘッドにぶつかって、ごめん、だけで済むだなんて思ってねえだろうなぁ!」

「どうしますか、ヘッド!」


ギャアギャアと好き勝手に騒ぐチンピラ達を警戒してか、先程まで活気に溢れていた町は静まり返り、通行人も店の従業員達も建物の中から固唾を飲んで様子を伺っている。
町のそんな様子を見て、エースは内心で「くだらねえな」とため息をついた。
自分はこんな小物相手に無駄な時間を過ごしている暇も無いし、何よりさっきからしきりに空腹を主張してくる胃袋をさっさと満足させてやりたいのに。
そんな風に考えながらポリポリと頬を掻くエースの様子に焦れたのか、ヘッドと呼ばれた男は前髪で半分隠れている瞳でぎょろりと彼を見下ろすと、


「……やれ。」


とチンピラ達に命じた。



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