過去clap

□2015/09/01〜
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【2、バクダン】


時刻はあと一時間程で深夜になろうかという頃合い。
灯りを必要最低限に絞った食堂で、お気に入りのラム酒片手に一冊の本を眺める影がひとつ。


「……なぁ、どうしたんだ?アレ。」

「サッチが読書なんて、明日は槍でも降るんじゃない?」

「珍しい事も有ったもんさね。」

「あぁ、ありゃ例の本だねい。」


開け放たれた扉の向こう、ラウンジから顔を覗かせたクリエルは共にグラスを傾けていたハルタやイゾウ、マルコへと問いかけた。ハルタとイゾウはクリエルと同じように、サッチの突然のらしくない行動に疑問を感じているらしい。だがマルコだけは訳知り顔で一人頷くとジョッキを煽った。


「例の本だぁ?」

「なにさ、それ。」


イゾウはさして興味も無さそうに徳利を傾けるが、クリエルとハルタはまるで面白いものでも見つけたかのような表情で話に食い付く。そんな彼らの様子にニヤリと口角を引き上げたマルコは、


「……ま、見てみりゃ分かるよい。俺ぁ仕事に戻るがねい。」


とだけ言うとジョッキを持って自室へとへ行ってしまった。
ラウンジに残された三人はそれぞれに顔を見合わせると黙って立ち上がり、食堂で相変わらず熱心に本を眺めているサッチの元へと向かう。だが近寄った事でサッチの見ている本の中身、文字ばかりのそれが目に入った事で再び顔を見合わせると、彼らは揃って肩を潜めた。
よほど読書に集中しているのだろうか、サッチはそんな三人に気付く事なくペラリ、ペラリとページをめくる。
暫くはそうやって覗き込む三人、読書に余念のないサッチという奇妙な構図のまま時が過ぎたが、突然以外な人物が動いた。


「そぉいっ!!!」

「んぎゃ!!」


背後にいる人影にも気付かない程に集中していたサッチは、上から急に叩きつけるように降ってきた大きな掌によって、紙の端っこを摘まんでいた手の小指を潰されて悲鳴を上げる。涙目で後ろを振り向いた彼の視界一杯には、迷彩柄の特徴ある服。


「こ、これは何だ!?兵法書か?」

「いてーってんだ、クリエル!急に何だってんだよ!?」

「サッチ、これはどんな戦略だ?」

「ハァ???」


後ろからグイグイと遠慮無しに本を覗き込む男、クリエルはサッチの抗議に耳を貸さずに一方的に問いかけた。サッチはしばらく困惑したように視線を巡らせていたものの、クリエルが次に放った言葉で目を丸くする。


「ここに『バクダン』と書いているではないか!」

「………あ?……あ〜あ〜あ〜、そういう事ねハイハイ、クリエルだもんな。」


ようやくこのミリタリーオタクな家族の疑問に気が付いた彼は、いつのまにかクリエルとともに側にいたイゾウとハルタを見遣った。


「お前ェさんが珍しく読書なんてしてっから、気になったのさね。この前も梅がどうとか……その本かい?」

「この本、何なのさ。」


クリエルはともかくとしても、どうやらこの二人もやはりサッチの読んでいた本が気になるようである。
やれやれ、自分が読書をするのはそんなに珍しい事なのだろうか。そんな風にため息をついたサッチは、仕方無しに本の説明をした。
したのだが。


「それで!この『バクダン』とやらは何なのだ!なぜ『バクダン』なのだ!」


ミリタリーオタクは先程サッチが料理本だと親切丁寧に説明をしたにも関わらず、いまだ『バクダン』に突っ掛かっているのだ。


「だ〜か〜ら〜、菓子だってんだよ!スイーツ(?)!」

「そうか菓子か!しかし『バクダン』というからには一度作ってみるしかないだろう!」

「専用の機械が必要だって言ってんだろ?」

「ノープロブレムだ!ここに、『使わなくなった砲身を利用し』と書いてある!」


一歩も引く気が無いらしいクリエルと、律儀にそれに付き合うサッチ。ちなみにハルタとイゾウは飽きたのか既にラウンジに戻って飲み直している。


「だから火力はどうするってんだよ?」

「エースがいるだろう!」


面倒臭そうにしていても、こと料理が絡むとサッチも簡単にはスルー出来ないらしく、二人は結局深夜まで『バクダン』の話で盛り上がった。







翌朝。


――――ドガァンッ!!!!

「!?何だよい敵襲かよい!!?」


徹夜で書類作業を終え、朝食の後でようやく床についたマルコは突然の爆発音に飛び起きた。
寝癖頭のままに慌てて部屋を飛び出し駆けつけた甲板で、そんな彼が見たものは。


「なるほど!だから『バクダン』というのだな!」

「これ、シリアルの代わりになるってんだよ!」

「うめェ!けど腹に溜まんねェ!!………ぐ〜〜〜……」


大砲のようなそうでないような物体から上がる、煙のようなもの。
辺りに漂う香ばしい香り。
大砲のような物体のあちこちをどや顔で確認しているブラメンコ。
腕を組んで満足げなサッチ&クリエル。
食べていると思ったら白い粒々に顔面を埋めて寝始めるエース。


敵襲かと寝不足の頭をフル回転させながら駆けつけたというのに、マルコの目の前では家族達がのんきにおやつを食べている姿があるばかり。


「……………。」


不死鳥マルコ、怒りのあまり普通のパイン(黄)からレアなピーチパイン(赤)にクラスチェンジするのはこの数秒後の事であった。




【二食目、バクダン。完食。】

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