サルビアのきもち

□二十
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そうしてマルコにより綿密な計画が立てられ、それと同時に島の祭りも日を追うごとに盛り上がりを見せ始めた上陸六日目。
兼ねてからの計画に従いその下準備の為に、現在ナツメはキングデューのもとを訪れていた。


「……よぅし!こんなものでどうだ?」


ドレッサーに筆を置いたキングデューは鏡越しにもう一度ナツメを見ると、その出来に満足そうに頷く。


「青い肌は良いとして、その三つ目は一体どうなってんだよい?」


「ふふふ、よくぞ聞いてくれたな!これはな……、」


たまたま書類仕事で顔を覗かせたマルコの疑問に、キングデューは嬉しそうに平たい箱を取り出すとその蓋を開けた。


「…げっ、なんだよいコレ。」

「『これで貴方も邪気眼使い!セット』だ!高かったんだぞ〜。」


その箱には色から開眼具合から様々な『目』が入っていて、どうやら肌に貼り付けるタイプのコスプレ道具のようだ。
ずらりと並んでこちらを見る邪気眼達のその気色の悪さに、マルコはひきつりながらも目を逸らした。
外野が騒いでいる傍らでは、当のナツメは角度や表情を変えてそのアートっぽいメイクの具合等を確かめている。そんなナツメの頭上では米俵が彼女の動きに合わせてふよふよと左右に揺れている。


「…これってやっぱり大黒天コスを解いたら戻っちゃいますかね?」


不意に振り向いたナツメがマルコにそう聞くが、マルコは首を捻った後、


「どうだろうねい?試しに解いてみたらどうだい?」


と答えた。
途端、キングデューが真剣そのものな顔をしながら、


「駄目だ!万が一取れてしまったら、折角の会心の出来が勿体ないだろ!…むしろこのまま写真でも撮ってナツメの手配書に…」


などと、断固反対&プチ撮影会妄想を喋り出した。


「阿呆かよい、自らお尋ね者になってどうすんだい。」

「いい年してこんな中二病くさい格好を世界に晒すなんて絶対に嫌です。」


マルコもナツメも仲良く首を振って「ないないないない!」と抗議したものの、キングデューの妄想はその後暫く暴走したのだった。









「じゃ、頑張れよい。…何か有ったらすぐ子電伝虫を鳴らせい。」


水平線に沈みかかった太陽が木々を赤く染める頃、社へと続く森の樹齢数百年にはなるだろう巨木の下で、マルコはそう言うとナツメの頭を撫でた。
キングデューにより「シヴァ神風」にアートメイクを施された彼女は、これより単身ユキの元へ向かう。
六日目のこの時間、ユキが社にて祈祷を行っている事は事前に彼女より聞いて分かっていた。
言ってみればナツメの大黒天コスやアートメイクは「万が一」の為の保険で、あらかじめユキに打診していたナツメは穏便に連れ去るつもりでいた。
だがいつぞや祭り会場で遭遇した老人達を思い出すと、そう上手く事が運ぶとも思えなかったので、万が一追っ手がかかったりした場合に備えて「マシバ様」のふりをする事にしたのである。


(出来ればあのお爺さん達には会いたくないなぁ…。)


あの時の老人達に感じた本能的な嫌悪感を思い出したナツメはぶるりと身震いをしつつ米俵に跨がると、木々の枝葉で身を隠しながらふよふよと社を目指した。








古びた跳ね上げ式の小窓から入る夕暮れの日差しに照らされながら、ユキはいつかと同じように一心に祈りを捧げている。
自分と全く同じ顔のはずなのにその姿が余りにも神々しく見え、小窓の隙間から覗いていたナツメは思わず目を細めた。しかしすぐに、彼女は決してその祈りを捧げている「マシバ様」の花嫁になる事が無いのを思い出して目を伏せた。


……カタン。


小さな音を立てて浸入したナツメに気付いたユキは、振り向いた先にいたその姿に目を丸くした。


「ナツメ…、よね?」

「……うん。」


恐る恐る確認する彼女に、ナツメは少しだけ照れ臭そうに頬をポリポリと掻きながら返事をする。
だがすぐに真剣な面持ちになると音を立てぬ様慎重にユキに歩み寄り、その白い手を引いて立たせた。
そしてただ一言、


「……行こう。」


と言うが早いか踵を返した。





【続】
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