銀魂

□【土高】月までの距離
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「よォ…、鬼の副長さん」

ただ気まぐれに江戸まで来た高杉。久々の江戸。
時刻は丑三つ時。
呆然と夜空を見つめて立ち止まっていると、後ろから聞きなれない足音がした。
しかし、振り返る必要などなく、背中越しに話しかける。

「…った、たか…すぎ?」

背中に突如感じる警戒心。
高杉だとは知らずに近づいた様子。
鬼の副長と呼ばれる男、土方は身構えるも、今日は非番で刀もない。
目の前には、背中を向けているとはいえ獲物を所持したテロリスト。
過激派攘夷志士、高杉を目の前に、土方は身動きが取れない状況。

「こんな夜更けに散歩かい?」
「…………」
「今日はいい月だからなァ…」
「…………(どうする…!)」

(どうする…俺!)

この身動きが取れない状況に土方は焦っていた。
寝付けなかったとはいえ、無防備に外出したのは間違いだった。

(まさか…このタイミングで…攘夷浪士の中でも最も過激で最も危険な男、高杉晋助に会っちまうなて…)

「なァ、副長さんよォ…」
「…っな、わわわわ」
「おいおい…そんなに驚くなよ」

いつの間にやら、高杉は土方の目の前まで来ていた。
土方は驚き大きく後退る。
そして、高杉は苦笑いを浮かべて歩み寄って来る。
下手に動けない土方は戸惑うばかりだ…。

「あんたァ、随分と美形なんだな…」
じろじろ観察してくる高杉に土方はどうすることも出来なかった。
土方からすれば、それはこっちの台詞だ、と言わんばかりだ。
真選組としてテロリストの高杉を追っている土方。
しかし、こうして間近で顔を見るのはお互い初めてだった。
少し見下ろすぐらいの身長、鬼兵隊の総監とは思えない細い身体。
そして、この女みたいな顔…。

(これが…あの高杉晋助…)

(…これが鬼の副長と呼ばれる土方十四郎)

高杉は不適な笑みを浮かべて、土方から離れる。

「……っ!」

高杉が離れた途端、土方は肩に強烈な痛みが走った。
遠くから響く銃の音…。
崩れるように倒れむ土方。

(…来島また子か、一体どこから…!)

土方は、高杉の危険を感じ駆けつけた鬼兵隊の一味の仕業だと察する。
銃弾は後ろからだった、土方は頭だけ向けて来島また子の姿を探す。
そして、暗い視界の中に一人の女を見つけた。
露出の激しい派手な服、両手に所持されている銃、あれははまさしく来島また子だ。
彼女は土方を避けつつ高杉の元へ駆け寄る。
思ったより遠くない、彼女なら急所も狙えたはず…と土方は不審に思う。

(わざとか…?)

「晋助様!!お怪我は!?遅くなって申し訳ないっス!!」
「俺が勝手に出てきたんだ、気にすんな」

「こいつ、真選組の土方っスね…!」

ガチャ、と再び土方に銃口を向けるまた子。
土方は肩を押さえ体を起こす。もう血だらけだ。

(まずい、このままでは殺される…)

「…銃を下ろせ」
「し、晋助様…」
「帰るぞ」
「でもっ!」

高杉はまた子の話を聞かずに歩きだす。

「くっ…アンタは晋助様のお気に入りっス。だから殺さない…」

それだけ言い残し、また子は高杉の後を追った。

(お気に入り…?何のことだ…?)

また子の言葉が気になったが、土方はそのまま意識を手放した。





「晋助様…あのッ!」
「いつからいた?」
「あ、え…っと」

ゆっくり歩く高杉。
また子はその少し後ろを歩いていた。
いつも明るく振舞う騒がしいまた子。しかし、今日は叱られた子犬のように大人しい。

「晋助様が背中を向けてアイツと話しているあたりから…」
「…最初からいたのか」
「はい」
「どうしてあそこで撃った」
「武器を持ってないとはいえ、相手は真選組の土方っス。近づきすぎは…」
「我慢してたのか…?」
「邪魔はしたくなかったんスけど…すいません、晋助様」
「いや、もう気にすんな」

土方は高杉のお気に入り。
鬼の副長と呼ばれ、真選組の頭脳として活躍する土方。そして腕も立つ。
攘夷志士たちは常に警戒し恐れる、危険な存在。
ただ、高杉は違う…。
そんな危険な相手こそ、敵として相応しい。ゾクゾクするほどに…。



☆続く…☆

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