小説 (大人向)
□架空体験
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架空経験(1)
もうベッドに入って何時間たったんだろう――…?
英二はゴロリと近い天井を仰ぎ見た。
見慣れた天井に、見慣れた筈の彼の人をまた思い出す。
いつも間近で自分が一番みている彼…。
ずっとずっとそうやって自分の恋人を脳裏に想い描き、考えに、長時間耽っては疲れた体勢を変えるために体をモゾモゾと動かす、ただこれの繰り返しばかりだった。
少し疲れて他のことを考えようとしても、なにを見ても、考えても、結局は不二へと辿りつき思い出してしまう。
「――……はぁ」
英二は幾度目かわからない溜め息を小さく零した。
こんなことの繰り返しでもう何時間過ぎたのだろう?
仕方ないと、このまま素直に自分の思考に流されようと、思いつくままの恋人の姿を瞼を閉じ真っ暗になった瞼の裏に鮮明に思い描くことにした。
電気のついていない月明かりが木漏れ日のように少し開いたカーテンの隙間から差し込む部屋。
カチコチとベッドの脇にある兄の机の上におかれた目覚まし時計の秒針がやけに大きく耳に響く。
いつもそんな音など気にもしないのに自分に早く早くと答えを急き立てるように届く。
不二のことばかりをあれこれと考え、あの笑顔を…自分にいつも向けられる特別な笑顔を思い浮かべた途端ふと不二の声が耳に入った気がした…。
――――エージ…
。