文*跳

□CALL
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今日も君は俺を呼ぶ


楽しそうに

嬉しそうに


「十代目!!」


だけど俺はその声を聞く度に…

少し、切なくなる。


名前で――呼んで欲しいんだ



CALL




交際3ヶ月。
そろそろ進展を期待してもいいのではないか。

最近、俺はそう思う。

「ねえ、獄寺くん」

「はいっっなんでしょう十代目!!」

帰って来たのはいい返事。
だけど、引っかかるのは最後のひとこと。

「…十代目じゃなくて、名前で呼ばない?」

常々思っていた。
何故獄寺君は名前で呼ばないのか。
なんだか、他人行儀な気がする。

「!!!そんな恐れ多い!」

何が恐れ多いのかわからない。

「でも、俺は名前で呼んでほしいんだけど」

「………………ッッ」

今日こそは名前で呼んでもらうんだ。
見つめていると、獄寺君は息をのんだ。

そしてためらいがちに、口を開く。

「…ッッ…つ、綱吉、さん…?」

茹で蛸みたいな顔をして
恥じらいつつ
俺をのぞき込むように
俺の名前を声にする。

いつもはカッコいい獄寺君が、可愛く見えて。

幸福感が、俺を襲う。

そして、いつも呼ばれない反動だろうか。
なんだか、恥ずかしい――というか、照れる。
獄寺君が真っ赤なのにつられるように、顔が熱くなってくるのが自分でも分かった。

「…や、やっぱりいいや!!」

あまりの恥ずかしさに、否定の言葉が口から飛び出た。

「…へ?」

少し間を空けて、間の抜けた声が獄寺君の口から漏れる。

「うん、十代目のままでいいよ!」

幸福感より、照れが勝ってしまった。

「いいんすか…?」

あいかわらず間の抜けた顔をして、聞き返す獄寺君。

「い、今さら、十代目ってほうが呼びやすいでしょ?」

もっともらしいことを言って、ごまかす。
照れるなんて、なんか、恥ずかしい。

「でも…つ、綱吉さんが望むなら!!」

そんな俺の思いを知ってか知らずか、いやこの鈍感君が気づくはずがないが、俺のごまかしを拒否する。

「む、無理しなくていいんだよ?」

たぶん効果はないだろう、それでも一応最終確認。

「いえ、綱吉さんと呼ばせていただきます!」

「…う、ん」

案の定、無駄だったわけだが。
あぁ悲しきかな、素晴らしき人生。

「………恐れ多いのですが…」

「ん?」

ふと見れば、さっきまで使命感に燃えるような顔をしていた彼が、俯いて目を泳がせていた。

「はっ な、なんでもありません!!」

聞き返すと、慌てた様子で無かったことにしようとしている。

「? どうしたの?」

「いえっ」

気になる。

「なに?気になるんだけど……」

目を見て言うと、また少し顔が赤くなった。

「あ、あの、えっと、はい。…う゛ー…」

やたらと、どもっている。
気になるなぁ。

「あの、その、えー、あー、うー…」

「ど、どうしたの?」

な、長い。そんなに言いづらいことなのか?

「う、え、……その、俺も、な、なまえで…」

だんだん小さくなる声。
聞き取りづらいなかから、単語でひとつ。

「名前?」

聞いたものをそのまま口にする。

「な、なまえで呼んで頂けたらなぁ、とか…」

!!
また一段と赤い顔で。
かわいらしい希望。

「い、いえ、申し訳ありません!!忘れてください…」

慌てて取り消しているが、もう遅い。

「獄寺君…」

よく考えたら、そうだ、俺も『獄寺君』だった。

「…隼人……って呼べば、いいかな?」

笑顔で彼を見ると、獄寺君は感動したような顔をしていた。

「!!!…は、はいっっ!!ありがとうございます…ッッ」

今にも泣き出さんばかりだ。
そんな姿すら、なんだか可愛くて。






今日も君は俺を呼ぶ。


恥ずかしそうに

幸せそうに


「綱吉さん!!」


そして僕はその声を聞く度に…

幸せに、なる。






end.
*******
2008.9.12

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