「白が舞う日に・・」
「降り積もる静寂に、足跡。」に連なる夢です。

(ここでの名前変換はできません。
名前変換ご希望の方はTOPのバナーよりお入り下さい。)












瞳を向けてくれたこと。
想いを告げてくれたこと。

それはまるで淡い幻。

私は時折不安になって
彷徨う手はあなたの袖を掴んだけれど。

桜の飾りは優しさの証。
寄り添うように見守り続ける。



―全ては、深く深く眠りの底で。







【雪どけの頃、夢の続きを。】







瞼が重い。
だけど。何かを・・忘れているような気がする。
美月はぼんやりとした意識の中で、ゆっくりと記憶を辿っていた。


朝から流魂街での任務に出て、帰りにはお祖母様の所に寄って・・
それから急いで冬獅郎の所に向かって。

・・私、仕事を手伝うって言ったのに。
その後の記憶は、繰り返し辿ってみても定かでない。



「いいから。横になってろ。」


書類の文字を追ううちに、いつの間にか深い眠気が忍び寄って
ウトウトする度、日番谷の声が降ってきていたような気がする。

・・結局、眠ってしまったんだ。
任務で疲れていたとはいえ、それは日番谷だって同じこと。
事の顛末が浮かび上がってきて、美月はギュッと目を瞑った。

・・呆れてるだろうな。


できることなら、このまま眠り続けてしまいたい。
だけど・・。私が言い出したことだから。
自分に言い聞かせるようにして覚悟を決めると、まだ重い瞼を恐る恐る開いてみた。
じわりと差し込んでくる光。辺りは眩しいぐらいに明るい。
目の前に広がる茶色が、徐々に見慣れたソファーだったのだと分かると
美月はそこから起き上がる為に体に力を込めた。

―けれど。
体が重い。いや、重いというより動かない。
そのままの状態で感覚を頼りに辺りを探ってみると、背には暖かな感触。
肩のあたりに重みがあって自由が利かない。



そろりそろりと背にある温もりの方に、体の向きを変えていくと
辿り着いた先には黒い死覇装。
そこから少し視線を上げて、自分を抱きとめている主に目を留めると
美月は思わず笑みを浮かべた。

肌に馴染む感触は彼のものだと分かっていた。
だけど、そこで待っていたのが穏やかな寝顔だったから。


その閉じられた瞼と唇を。額に流れ落ちる一房の銀の髪を。
吸い寄せられるようにして、まじまじと見つめてしまう。
もしも、ここで日番谷の眠りが覚めて目が合ったりしたら・・きっと凄く恥ずかしい。
けれど、日番谷が深く寝入る姿を見せたことなど今までにないことで
こんな風に彼の特別な一面を独り占めしていることが、何とも言えず嬉しくて。愛しい。




―今、何時頃だろうか?
暫くして、思考が周りのことにまで及び始めると
美月は日番谷の眠りを妨げないように、感覚を研ぎ澄ませてみた。
辺りに人の気配はなく、聞こえるのは日番谷の規則正しい寝息だけ。
自分たちを取り囲む世界も、まだ眠りの中にあるようだ。  


就業の時間までに間があることを確かめると、美月は安堵して体の力を緩めた。
来客用の少し広めのソファーとはいえ、
二人が収まるには窮屈で自然にピタリと体を寄せ合う形になっているから、
包み込まれているような、護られているような感覚に心が和らぐ。
―あと、もう少しだけ・・
乱菊や隊の者たちが来る前には日番谷を起こさなければと思うけれど、
手放すにはあまりにも惜しい心地の良さ。

それにしても、美月を抱きしめたまま執務室で眠り込むなど、
普段の日番谷ならばまず考えられない行動。
―すごく疲れているんだ。
きっと、美月が眠ってしまった後も一人で書類を片付けていたに違いない。
日番谷の為に。と思ったことが、裏目に出て余計に無理をさせてしまった。
ただでさえ疲れているところに無茶な提案をしたりしたから。
・・ごめんなさい。
心の中で呟いてから、美月は呼吸と共に緩やかに上下する目の前の胸に顔を埋めた。
日番谷は美月が先に眠ってしまったことなど咎めたりはしないだろう、
目覚めたら何も言わずに美月を連れて潤林安に向かうのだろう。
・・いつだって、こんなにも優しい。
死覇装が少し肌蹴けたそこは彼の体温を直に伝えてくる。


大切な人の傍に、こうやって寄り添っている幸せ。
こんな幸せも良いのかもしれない。





―なら。せめて俺のとこにこねえか?

心を過ぎったのは、あの言葉。
十番隊に来い。と言った日番谷に美月が返事を渋っていると、
至極あっさりと紡がれた言葉。
迷う必要なんてないはずだった。素直に頷くべきだった。
それなのに、美月は二つ目の返事も濁してしまった。
「本当に私でいいの?」
心の底にあったのは不安ばかりの言葉。
自信がないだけなのだと、それすらも言葉にできなくて伝えられなかった。


気まずいまま、切り出すこともできなくて
翡翠の瞳をまともに見つめることもできなくなっていた頃。
日番谷は美月の腕を捕らえて言った。


―この間の・・返事。
無理にとは言わねえから。避けるのは止めてくれ。



―待っててやる。その代わり、肯定の返事しかいらねえからな。
その気になったら言ってくれ。




―返事。忘れるなよ。





優しすぎて、時々泣きたくなる。


・・今なら、伝えられるだろうか?
少しでも冬獅郎の傍にいたいのだと。
心はもう、決まっているのだと。




もう一度、ゆっくりと日番谷の寝顔を見上げてみる。
大好きな人の寝顔を見つめているだけで、こんなにも幸せで、
いつまで見つめていても絶対に満足なんてできないんだと思う。


自分に掛けられていた白い隊首羽織をグッとと引き寄せると
日番谷の体にも掛かるように、ふわりと羽織を広げた。


包み込む白い羽織、抱き寄せる腕、熱を伝える体温、
心地の良さの正体は全て彼がくれたもの。



・・冬獅郎こそ、あの言葉。忘れないでね。





穏やかな寝顔にそっと触れると
背にまわされていた腕に力が込められ、引き寄せられた。








―全ては夢のように。今も過ぎていく。







「白が舞う日に・・」から続いた、誕生日企画夢はこれで完結です。こんなにも妄想が膨らむとは予想外でした(笑)
「雪どけ〜」は書きたい!と思った時に書く時間がとれず、後半は熱が冷めた頃に書き足したので苦戦しました。
私にしては甘い感じなのも苦戦の原因かも。
しかも、後半になる程・・文が途切れ途切れで苦しい。いつもの事ですけど・・近々修正します。
とりあえず、これで去年の6月から気の向くままに書いてきた「雨シリーズ」は休憩です。
また気が向いたら・・「告げる言葉〜」から「宵霞」の間の二人が一番甘々だった頃の話や、この先の話を書くかもしれません。
私としては、「宵霞」のあのエピソードを拾えたことと、今回の話でヒロインに隊長の名前をやっと呼ばせることができて満足です!















[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ