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【孤独な月の行方(後編)】




伏せがちに雛森さんを見つめる翡翠の瞳。

こんなにも近くにいるのに。
容易く視界に捉えられるはずなのに。

その瞳は、私の姿を映さない。




だけど。

この場所でずっと帰りを待ち続けていたのは何のため?
そう思い直して、拳にギュッと力を込めてから口を開く。




「大きな怪我をしましたね。」



距離が近付いた時に、日番谷君の霊圧が
わずかに乱れていることに気づいていた。




「大したことはねぇ。」



日番谷君は私の言葉に決まりの悪いような表情を浮かべ、
それから眉を寄せた。





「すっかり治っているみたいだけど。
 でも・・診せてもらいますね。」



それぐらいしか私にはできないのだから。
治癒すること。それが私の仕事だから。
そう自分に言い聞かせて彼の向かいの場を離れた。
それでも、距離を縮める一歩にまでも勇気がいる。
近付く度にヒタヒタと鳴る足音は、
私の決意の証のように部屋中に響き渡る。


やっとの思いで日番谷君の傍に立つと、
背を向けたままで、こちらを向いてくれる気配はない。
こういう時の彼は頑固だから。
仕方なく、霊圧の乱れの強い肩に背後から恐る恐る手を置いた。



私の手を振り払うことはないと分かっていた。
それでも、拒絶されなかったことに安堵して
一度心を落ち着かせてから、死覇装の下の傷口に意識を集中する。


きれいに治されている傷口から痕跡を辿っていく。
・・・受けた傷はかなり深い。
隊長である彼がこれ程の傷を受けるだなんて、
現世での戦闘はどれだけ激しいものだったのだろう。
瀕死の状態で救護室に運ばれてきた、あの時のことを重ねて思い出してしまう。

・・無事で良かった。

ありったけの霊力を込めて、彼の肩を包んだ。




霊力で発せられた光で俄かに辺りが明るくなって
今更だけど。改めて、照らし出された近過ぎる距離に胸が高鳴る。
暗闇の中に彼の横顔がはっきりと浮かび上がって
徐々にだけれど、彼の表情が・・和らいでいくような気がする。

気安く彼の手当てができた統学院の頃も
私が治療で触れる時は、いつもこういう表情をしてくれた。


それが、あの頃から・・嬉しかったんだ。











「これで、少しは前より楽になったはずですよ。」



そう言って、私の口は治療の終わりを告げたのに
私の両手はまだ彼の肩にある。


この手を離せば、
またどこか遠くに行ってしまうのだろうか?
次は、帰ってきてくれるのだろうか?
自信と誇りに満ちた揺るぐことのない彼の背を見つめながら、
膨れ上がる不安に耐え切れなくなってくる。
ギュッと目を瞑って。
そのままの衝動に引き寄せられて、
その背にすがるように額を当てた。




「おい・・桜之?」



驚きと気遣うような優しさが混じる声。

私は何も答えずに沈黙に身を置いて、
目の前の存在を確かめるように、彼の体温に寄り添う。




離せずにいる彼の肩からは、先程までの力が穏やかに抜けていくのが分かる。
それはまるで私を許し受け入れてくれるかのように思えて、
心が・・震える。






「変わらないな。
 桜之の霊圧は落ち着く。」






たった一言で。

私を救い上げていく。









「帰って・・きたんだな。」










「うん・・お帰りなさい。」






今まで張り詰めていたものが急に緩んで
・・・胸が苦しい。のどの奥が苦しい。
涙がそれをゆっくりと溶かすように溢れてくる。
熱い雫は彼の羽織を伝い、秘めてきた想いを滲ませていく。





「もう泣くな。」



力強く手を引いて、優しく私を抱き寄せてくれる彼の腕。




「これは。今まで我慢してきたぶんですから
 ・・覚悟してください。」



その言葉に、あやすように私の髪を撫でてくれる手。


―ああ。やっぱりこの手がいい。


彼の手が私の髪からゆっくりと離れると
次は頬に伸ばされて、頬に届く直前で
ピタリと宙に止まった。





「俺は、まだ返事を聞いてねぇんだ。
 だから、触れられねぇ。」




見上げると
強い瞳に私が映る。





「お前は、昔から躊躇いもせずに俺に触れるくせに。」




「わ・・私は仕事ですから。」








彼の意思がこもる真剣な瞳に。
見つめてくれる温かな瞳に。


私はまた恋をする。










二人を照らし出すのは、
どこまでも静かな月明かり。
その月明かりさえも今は愛しい。











「一滴となるその手前」から続く、
一連のアバウト差加減が何とも言えないです・・・

アニブリのOP・EDに流れる劇場版の映像を観て、
一人ハイテンションになったのが午前1時過ぎ。
隊長・・なんて格好いいんだ!素敵過ぎだ!男前だ!
・・そのままの勢いで書き進めてしまいました!!
変なテンションで書き上げたので、冷静になって読み返して
後悔したら・・修正します;;

隊長が男前すぎるからいけないんです(笑)

ええと。まともな後書きはブログにて!






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