□最高の時間をきみに
3ページ/9ページ


その後も、やれ美容室だの靴屋だの、色々な高級ブランドのお店に連行された。
今日一日で一生分のブランド店に行く回数を行った気がする。
普段の、そして多分未来の俺とは無縁のお店だし。

そして今もまたどこかに連れて行かれている途中だ。

何だか一気に疲れてしまった。
フカフカのシートに背を預けたいが、スーツに皺が寄ってしまいそうで、だらしない格好にならないように気を遣いながら座る。
自分のお金じゃ絶対買えないから、後で返品するためだ。
このスーツ一着でPS3が果たしていくつ買えることか。



暫くすると、車が静かに止まった。
窓から確認すると、そこには天高くまでそびえ立つ建物。
あぁ、これもテレビなんかでよく見かける。
イヤ、テレビで見なくても名前くらいなら誰だって知っている。

そこは日本で一番高級と名高いホテルだからだ。


竦んでしまう足を何とか動かし、中に入る。
何も言っていないのに、ホテルの人は俺を最上階の部屋まで案内してくれた。








********







「では、ごゆっくりどうぞ」

「は、はい…」


ドアノブだけでも相当な額がするんじゃないかってくらい手の込んだ作りをしているそれに手を掛け、扉を開ける。

目の前に広がった部屋は形容しがたいほどに、高級感が溢れていた。
一般人の俺の貧層なボキャブラリーじゃ、上手く表現できない。

大理石の床の上をそっと歩く。
コツコツと音が響く靴も、有名なブランド物。
皺にならないようぎこちなく歩く滑稽な人間が纏っているスーツも、もちろん高級ブランド。

俺の実家なんかより断然広いこの部屋の奥へと足を進める。
すると、壁一面が大きな窓ガラスになっている部屋に辿り着いた。
視界いっぱいに東京の夜景を臨むことができる。


「(……あ…)」


その窓ガラスに凭れ掛かって腕を組んでいる人がいた。
景ちゃんだ。
ぼんやりと外の景色を眺めている姿に、思わず見惚れてしまう。

視線に気付いた景ちゃんが、ゆっくり俺の方を向いた。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ