□とっておきの日
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学校に着いた瞬間、しまったと思った。
校内がお祭り騒ぎをしている中(騒いでいるのは主に女子だが)、俺は自分の失態にうちひがれる。

今日は跡部の誕生日なのだ。

跡部とは部活も一緒で同じクラスということもあり、仲が良い。
絶対的なカリスマ性を兼ね備えているのに人当たりが良い跡部は、男女問わず人気がある。

そんな跡部に、俺は随分前から恋をしている。

なのに誕生日を忘れてしまうとは。


「(中間のことで頭がいっぱいやった…)」


そう、週明けに控えている中間テストのことで頭がいっぱいで、誕生日はうっかり忘れてしまっていたのだ。

でもそれは言い訳に過ぎない。

現にほら、女の子たちはちゃんとプレゼントまで用意しているのだから。


「(……アホや…)」


自己嫌悪に陥りながら溜め息を吐き、教室に足を踏み入れた。


「おはよう、忍足」

「……はよ」


女子に囲まれている跡部がこちらに気付き、爽やかに挨拶をしてくる。
その笑顔が眩しくて、でも恥ずかしくて、愛想のない返事をしてしまった。

またやってしまった。
素直になれない自分に嫌気が差す。

けれど人が良い跡部は無愛想な俺の対応なんて気にもせず、綺麗な笑みを浮かべながらこちらにやって来た。


「実は俺、今日誕生日なんだ!」

「……へぇ、そうなんや」


知ってる。
今さっき思い出したばかりだけど。

キラキラした笑顔を直視出来ず、視線を床に落とす。
返事も、可愛くないものになってしまった。

おめでとうくらい、素直に言えたら良いのに。

愛想良く出来ない自分に腹が立つ。


「だからさ、祝ってくれよ忍足」

「……何で俺が」

「ん?お前に祝って貰いたいから!」

「……っ、…」


先程より更に眩しい笑顔で、しかも深い意味はないとは言え嬉しいことを言われ、思わず赤面してしまう。

跡部の言葉はいつも直球だ。
深い意味なんてないけれど。


「忍足?」

「……っ、おめ、でと」


漸く出て来たお祝いの言葉は、随分素っ気ないものになってしまった。

でも仕方ない。
あんな綺麗な顔で覗き込まれたら、誰だってああなると思う。


「サンキュ、忍足!」


少年のような笑顔を浮かべ、跡部は女子の集団に戻って行った。


「……卑怯や…」


跡部はいつだって、俺の心をかき回して行く。

でも、そんなところも好きだと思ってしまうから、結局俺の負けなのだろう。


「(おめでとさん…)」


遠くから跡部を見つめ、心の中でそっと改めてお祝いの言葉を掛けた。



Fin
爽やか×ツンデレでした!
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