□最高の時間をきみに
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「……あの、どこ行くんですか?」

「申し訳ありません。それは企業秘密です」

「はぁ…」


花の金曜日。
ついでに俺の誕生日でもある、10月15日。
そんな素敵な日なのに、何故か俺は拉致られております。

誘拐犯は見覚えのある人だけど。







【最高の時間をきみに】







座り心地抜群のリムジンのシートに揺られながら(実際は全く揺れていないけど。なんて静かに走るんだリムジン恐るべし)、窓から流れる景色を見る。

ラッキーなことに監督の都合で部活が休みになり、誕生日を景ちゃんといっぱい過ごせるとすこぶるご機嫌だった俺。

昨日の部活終了後、明日の夜は空けとけよ?って大好きな恋人が軽く笑いながら言うもんだから、俺は首を縦に振るしかない。
景ちゃんの笑顔は本当に格好良くて、どんな女の子でも一発でイチコロにしてしまう。
しかも珍しくどこか楽しそうにしているから、尚更。

俺の誕生日、景ちゃんも楽しみにしてくれてるのかなって思って胸がキュンってした、のに。


肝心の景ちゃんは今ここにはいない。


ウキウキ気分で指定された待ち合わせ場所、校門前で待っていたら、いきなり高級リムジンが俺の前に止まり、運転手さんに連れ去られてしまったのだ。

景ちゃんと付き合う前まで、高級リムジンなんて俺には無縁の存在だった。
跡部家御用達のリムジンだから、運転手さんだって見覚えがある。
景ちゃんは滅多に車を使わずに普段は徒歩か電車で済ませるため、俺もこの高級車に乗る機会は滅多にないけれど。

行き先を訊いても上手くはぐらかされ、おまけに景ちゃんの姿も見当たらない。
というか、今日は一回も会っていない。
おめでとうの一言も聞いていないのだ。


「(自分は直接言われなくて拗ねてたくせに…!)」


高級リムジンなんて良いから、景ちゃんに会いたくて仕方なかった。



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