□ツンデレなんて損するだけだ!
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部活がない放課後。
昇降口へ向かって階段降りていた時。


「おっ、お、おしたり…!」

「何や?」

「……ぁ…、うぅ…」

「?」

「さ、さようならっ」

「……さようなら」


頬をうっすら染めて、しかも噛み噛みな我が部長。
眉目秀麗、頭脳明晰、スポーツ万能、そして世界でも名を馳せている超有名な財閥の一人息子…、肩書きを挙げれば切りがないくらい物凄い男、跡部景吾。

そんな彼が顔を真っ赤にして、去り際に一言挨拶を交わしてくれた。

本当は、さよならを言いたいんじゃないことを、俺は知っている。



忍足侑士。
跡部と違ってごく普通の平凡な男。

そんな俺が何故だか跡部に好意を抱かれているようです。







【ツンデレなんて損するだけだ!】







いつからなんて覚えていない。
気が付けば、いつも視線を感じていた。

自惚れと言う人もいるかもしれない。
でも、これは絶対自惚れなんかじゃない。

というのも、跡部が分かりやす過ぎるのだ。

顔を合わせれば熟れた林檎のように顔を真っ赤にし。
話し掛ければ一瞬眩しいくらいの笑顔になるも、吃りまくるし。
この前なんて笑い掛けたら失神してぶっ倒れてしまったし。

挙げたら切りないが、跡部は本当に分かりやすい。

最近は何か俺に伝えたいことがあるらしく、毎日こうやって話し掛けてくる。
けれどもう一週間が経とうとしているのに、一向にその気配が感じられない。



「(挨拶してくれただけ最初より進歩したか…)」


初めはうめき声を上げるだけでどこかへ逃げてしまっていたのだから。


「(……ホンマ、ヘタレやんな)」


世間は跡部様ーだの、カリスマだの騒いでいるが、蓋を開ければ何てことない、跡部は只のヘタレチキンである。
ちょっとのことですぐにビビるし、すぐ泣くし、めっちゃ怖がりだし、妙に乙女だし、結構繊細だし。
本当の跡部の姿を知っているのは俺たちテニス部レギュラー陣しかいない。

ファンの子たちが抱いている俺様ドSなイメージとはかけ離れてる。
寧ろ真逆だ。

まぁ、いざとなったらスイッチが入って人が変わったように堂々としてるけど(そこまで持っていくのに、腹痛やら吐き気やらに悩まされてるのはここだけの秘密だ)


そんなヘタレ満載な跡部くんなのだ。
何かを伝えるだけでも物凄い勇気がいるだろう。

俺が動けば良いって?
アホ言うな。
別に俺は跡部のこと好きでも何でもない。

イヤ、嫌いでもないけど。
想われて嫌な気はしないけど、うん。

別に俺から動く義理はない。


ないんだ。



「…ぁ、……ぅ…」

「………」


後ろで未練がましくうめき声を上げている跡部という名のヘタレ、またはアホ。


「(あぁっ、もう!)」


だって仕方ない。
いつまでもうだうだしている相手が悪い。

いい加減言えば良いじゃないかっ



俺が好きだってことくらい!




「跡部っ」

「は、…え?おしたり…?」

「……アホっ」

「うぅ、ごめんなさい…」


シュンとしてしまった跡部に、俺も言葉が詰まる。

俺も大概他人のことが言えないな。
だって肝心なことが言えないんだから。

どうして良いかわからず、顔を真っ赤にしながらオドオドしている跡部と、何も言えず俯く俺。


暫く沈黙が続くと、大きく深呼吸をした跡部が口を開いた。


「おし、おしたり、あのな、」

「……おん」


柄にもなく緊張して、情けなくも掠れた声しか出てこない。
手がちょっと震えている。
でも目の前の跡部は全身がガチガチになっているから、まだ俺の方がマシか。


「お、おれっ、おれ!」

「………」


心臓がバクバクいってる。
何でこんなドキドキしているんだろう?

相手が何を言うのか、分かり切っているのに。
何で…?


「……うぅ、その、す、す、す、」

「………」


心臓が五月蠅くて跡部の言葉が耳に入ってこない。
今の俺、絶対顔が真っ赤だ。
だって頬っぺたが燃えるように熱い。


あぁ、もう認めますよ!

俺も、跡部のこと…



「す、す、す、す…」

「………」


頑張って跡部…!


「す、すきっ、す、すき屋に行きませんか!」

「………」


息を詰めて跡部の言葉を待ていたのに。
ドキドキしながら、足がガクガクになりそうなのを堪えながら、待っていたのに。

このヘタレときたら…!


「おし、たり…?」

「……何や」

「おこってる…?」



そっと伺うように俺を見る跡部に、俺はもう我慢の限界だった。


「このヘタレ!」

「ひっ、は、はい…」

「たまには根性見せろやボケっ」

「ごめんなさい…」


息を荒げながら、俺は踵を返してその場を後にした。
後ろからすすり泣く声なんて無視だ無視!



ヘタレに期待し過ぎるのが悪いのだろうか。
俺から言うべきなのか?


「……む、無理や…」


そんなの恥ずかし過ぎるっ
俺から告白なんて、そんなのとても…

でも、これじゃあいつまで経っても進まない。


「……あとべのアホ」


はよ、好きって言ってや

そうしたら、俺も精一杯応えるから。
俺も、好きなんだって知ってほしいから。


「うぅ…」


あぁ、もう少し自分が素直だったなら、
この恋、もっと早く成熟できるのに!



FIN
ゆうしいとし様へ提出
 

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