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□New year
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温かい緑茶を啜りながら、紅白を見る。
ジェ●の歌に少しホロリとし、心行くまで堪能する。
やっぱ演歌は良いな。
今度カラオケ行ったら思う存分歌おう。
とうとう番組もクライマックス。
さてと、そろそろ年越し蕎麦の準備をするか。
女性歌手の歌声を背中で聴きつつ蕎麦を茹でていると、インターホンの呼び鈴の音がした。
誰だよ。
こんな時間帯に他所の家を訪ねてくる非常識なんて知らねぇぞ。
……イヤ待て。
一人だけいるぞ、非常識ヤローが。
覗き穴で確認すると、やはりそこには非常識ヤロー基忍足の姿があった。
ピンポーン、ともう一度呼び鈴を鳴らす。
うん。
これは無視するのが得策だ。
絶対ぇ開けねぇからな。
「けぇーちゃーん!」
「(跡部景吾はたった今よりN.Y.で正月を満喫するという設定になった為、ここには存在しません。速やかに帰れ今すぐ帰れ)」
心の中でそう唱え、静かにキッチンに戻って蕎麦の盛り付けをする。
しゃあないなぁ、って声と共にガチャガチャと何かの音がしたが無視だ無視。
……ん?
ガチャガチャ?
「あ!やっぱり景ちゃんおるやんか!」
「テ、テメーどうやって入った?!」
「もう、居留守使うなんて酷いで?」
「イヤだからどうやって入ったんですか」
「あ、まだ12時前やね!間に合って良かったわー」
「人の話を聞けェェェェ!!」
ハァと聞こえるように溜め息を吐く。
頭が痛い。
何か一気にドッと疲れた…
他人の話をよく聞くって事を全く知らないんだ、コイツは。
仕方ねぇ。
潔く諦める他ない。
「……お前も食うか?蕎麦」
「おん!食べる!」
えへへ景ちゃんの手料理や、とかほざいて頬を染める忍足の前に蕎麦と汁を置く。
忍足の向かえに座り紅白を観ると、今年の取りを務めるき●しが歌い始めていた。
「今年はどっちが勝つんやろうね?」
「ジェ●がいる白組に決まってんだろ」
「ふふふ、景ちゃんホンマに演歌好きやね」
「悪ぃか」
「ううん。そんな景ちゃんも素敵で大好きや!」
「ああそうですか」
二人でズルズル蕎麦を啜る。
目の前で美味そうに食う忍足を見て、思い出した。
「お前、どうやって家に入ったんだよ?」
「んう…?」
鍵はちゃんと掛けてあったんだ。
一体どうやって家に入ったんだ?
ま、まさか…
「まさか俺ん家の鍵を盗んだ訳じゃねぇよな…?」
「そんな事する筈ないやろー。景ちゃんがくれたやんか」
「は?何を?」
「もう、忘れたん?寂しくなったらいつでも来いよって言うて合鍵くれたやん!」
「……あぁこれ以上不法侵入されたくなくて渡してたなそういえば」
いつもいつも神出鬼没に俺の家に現れる忍足に疲弊しきって、普通に玄関から入って来るようにと鍵を渡したんたった。
あの時の俺、きっとどうかしていたに違いない。
「あ、景ちゃん番組変えてもえぇ?」
「ふざけんな。このあと行く年来る年を観るんだ」
「えー、あんなん寺ばっかでつまんないやん。CDTV観ようや」
「そんなに観たかったら家に帰れ」
「イヤや!」
シュンとしながらも大人しくなった忍足。
ったく、しょうがねぇな。
「……12時過ぎたら変えてやる」
「景ちゃんありがとう!」
大好きやぁ!と言いながら抱きついてくる忍足を無理矢理引き剥がす。
全く現金なヤツだ。
「朝、一緒に初詣行こうな!」
「何でだよ。っつうかお前泊まる気か?」
「えぇやん!恋人同士なんやし」
「……チッ」
何でコイツを恋人にしたんだろう?
過去の俺よ、どうか答えて頂きたい。
ボーンボーン
「……あ、」
「2009年やね」
あれこれやり取りしている内に、テレビは除夜の鐘と共に午前0時を知らせた。
「あけましておめでとう、景ちゃ…景吾」
「あぁ、おめでとう……侑士」
「えへへ、今年もよろしくな!」
「……あぁ」
今年こそ、静かな一年を過ごしたい。
そんな切実な願いも、目の前で満面の笑みを浮かべている忍足によってぶち壊されそうな気がするけど。
ま、別に悪くはねぇか。
密かにそう思った。
FIN