こっそり。
□午前0時00分。−最愛−
1ページ/1ページ
10月11日 午前0時。
「悪かったな遅くなっちまって…」
二人は、新八からもらったケーキを食べている。
「ほれ…」
土方は、銀時にケーキを食べさせながら、嬉しそうに食べるその姿を見ていた。
「そーいや新八は??」
銀時は、もぐもぐしながら、今度は土方にケーキを食べさせる。
「…甘。……アイツならさっき外で会って俺にケーキ渡してから自分の家帰ったぜ。」
土方は、甘いものは苦手だと言いながらも、「アーン」とやってくる銀時が可愛くて、ためらいつつもケーキを食べていた。
「あら。そうだったの…」
土方はまたケーキを銀時の口に持っていく。
「お前の誕生日俺に教えてくれたのもアイツだし。…たく、良くできた部下だなぁ。」
「うるへー…」
銀時はケーキを頬張りながら照れた様子で言った。
いつの間にかもう最後の一口だ。
土方の皿に残った生クリームまみれのいちご。
銀時は、早く早くと言わんばかりに口を開けてスタンバイしている。
土方はフォークでいちごを刺すと銀時の口元に持っていった。
しかし、様子がおかしい。
土方は、
「もっと美味しくしてやるよ。」
と言ったとたんいちごを「パクリ」と食べてしまった。
「ッ!!!!!てめッ何しやがる!!俺のいちご返しやがれ!!」
銀時の喚いてる姿をニヤリと見つめ、土方が立ち上がろうとした。
その瞬間。
「銀サンのいちご返…ッ。」
テーブルに身を乗り出した土方は、片手で銀時の顔を引き寄せた。
「まぁ待てよ、今からやるから。」
そう言うと、銀時の唇に食いついた。
「っ!?」
いつもは煙草の味がするキス。
今回ばかりは、いちごの甘酸っぱい味が口の中に広がり、
その甘さに意識が遠のく。
フォークを握っていた右手からは力が抜け、
漂う右手は、空気を掴むように
ただ温もりを求めた。
「な、いつものいちごより美味かったっただろ?」
土方が笑みを浮かべた。
「…調子に乗んなよ。」
絡めた右手を軽く払うと、銀時は照れくさそうに目を伏せながら言った。
ところが、
次の瞬間、銀時は何かに気づいたのか、土方の顔をの覗くと、手を取り顔を近づけた。
「俺、もっと美味いの知ってんだ…。」
急に引っ張られよろめく土方に、銀時はキスするふりをして口の横に着いていたいちごを舐めとる。
「ごちそうさま。」
耳元で、吐息混じりに囁くと、
土方は突然の出来事に戸惑い、頬を赤らめたまま時が止まったように固まっていた。
「来るの遅かったから仕返しぃ!!」
銀時はそう言うと、食器を手に取り台所へ行ってしまった。
時刻は10月11日午前0時30分を過ぎたところ。
台所から戻ると、土方は遅くなってしまったことを気にしているのか、さっきの銀時の行動に照れているのか、頭をかいて俯いていた。
「…バカ、遅いなんて思ってねーよ。ウソだよウーソ!!」
「・・・。」
そうじゃなくて。
そうじゃなくて・・・
「その、、あれだ。何てゆうか………あ、ありがとな…トシ。」
「銀 時…。」
土方は顔を上げ、優しく微笑んだ。
プレゼントなんていらない。
無理矢理休みを取れ何て言わない。
会わなくてもいい。
と言ったらウソになるけど。
でも、
いつも羽織っているはずの上着、
今日はベストだけで、
捲り上げたままの袖は、左右ちぐはぐの高さで、
額に滲ませていた汗と、
乱れた呼吸。
―仕事…あったんじゃねーの??
自惚れても良いですか??
愛されていると。
今まで何てことなく過ぎていた日々、
だけと、土方の存在が毎日を特別なモノにしていった。
誕生日なんか今までどおでも良かったけど、
自分がこの世に生まれてきた日を、こうして祝ってくれる奴がいる。
死ぬほど会いたい。
と思った奴が、今目の前にいる。
こんな幸せなことはない。
時刻は10月11日午前0時40分。
土方は銀時をフワリと抱きしめた。
「ゴメンな・・・遅くなって・・・。」
「・・・。」
銀時は土方の腕の中で、首を横に振りながら必死で涙を堪えた。
遅いだなんて思ってねぇよ。
間に合ったじゃねーか。
時刻は、
10月10日、24時42分。
二人が眠りにつくまで、
10月10日はつづく。
今日は愛する人がこの世に生まれた日。
おめでとうよりも、
ありがとう