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□闇夜を照らして
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『闇夜を照らして』
「ったくなんなんだよ赤司のやつ…」
部室に入るなり、青峰くんがぼやいた
無理もない、ぼくたち…キセキの世代と呼ばれる青峰緑間紫原黄瀬くんの四人とぼくは、もう一人のキセキである赤司くんから部活中いきなり呼び出しをくらったのだ
「んでやっぱ赤司っちは最後なんスね…」
「あいつはそういうやつなのだよ」
「お菓子食べる時間できて正直嬉しいけど〜」
「部室にはお菓子持ってきてダメですよ」
ぼくが言ったところで紫原くんは手を止める素振りすら見せない
「てか全中終わって俺達もうホントは引退っスよね?受験あるし」
黄瀬くんの口から尤もらしい言葉が出る
ぼくたちは3年生
全中を三連覇で飾り、堂々の引退を果たすはずだった
はずだったのだけれど…
「あ?黄瀬おめー勉強してんの?」
「は!?青峰っち勉強してないんスか?」
「推薦来てるしそれでいーからなー」
「というかお前はすでに手遅れなのだよ」
「ははー言えてるね」
「反論しないんスか!?」
「まぁ赤司が引退はちっと待て言ってんだから、いーんじゃね?」
そう、ぼくたちのキャプテンだった赤司くんが何故かぼくたちの引退を止めていた
何故かは副キャプテンの緑間くんにもわからないそうだし、なによりぼくは──
「もう揃っているかい?」
ガチャリ、と扉が開いてぼくたちを呼び出した張本人、赤司くんがやっと来た
「とっくの昔になー。お前がいつも遅いんだって」
「すまないね、何しろ少し立て込んでいたものだから」
青峰くんの悪態もさらりと受け流した赤司くんは「時間もないことだし単刀直入に言うよ」と言って、赤司くんの前に横一列に自然に並んでいたぼくたちをぐるりと見回した
「進学する高校についてなんだが、みんな色々なところから推薦が来ているはずだ」
「まぁ、な」
青峰くんが一番に反応した
帝光のエースということで恐らく引く手あまたなんだろう
「そこで、だ。まずは緑間」
「なんなのだよ」
「お前には秀徳に行ってもらう」
「は?」
いきなりの発言に流石の緑間くんも素頓狂な声を出した
「黄瀬は神奈川の海常、紫原には秋田の陽泉、青峰は…まぁどうせ無理難題を言うお前を受け入れてくれるところといったら限られてくるから、そうだな…桐皇、といったところかな」
赤司くんというと、そんなこと関係なしにみんなの名前と高校名を挙げていく
そのどれもが強豪の名を掲げている高校ばかりだ
「ちょ、ストップ!!赤司っち、なんで俺の推薦校知ってるんスか!?つか全員の!?」
「俺を誰だと思ってるの黄瀬」
「あー…そースね」
黄瀬くんの苦笑いには共感せざるを得ない
赤司という人間の情報網は蜘蛛の巣のように伸びていて、今のような機密事項でもさらりと手にいれるのだ
「秋田かぁ〜。遠いね〜。まぁ赤ちんが言うんだったら別にいーけど」
未だお菓子を食べながら紫原くんが言う
東京から秋田に引っ越すということに抵抗を見せないところが紫原くんだ
「赤司に言われるまでもないのだよ。俺は最初からそこが志望校だからな」
秀徳と言えば都内王者として有名な面もあり、しかも偏差値の高い進学校でもある
赤司くんに勝ったことがないといっても常にテストで上位にいた緑間くんらしい選択だと思う
「俺、都内じゃないんスか…まぁ首都圏内だから副業的にも問題ないスけど」
モデルを兼業する黄瀬くんらしい
不服はあまり無さそうだった
「俺ァ練習しなくていーんだったらどこでもいいからな。まぁテキトーに見て決めるわ」
…青峰くんも不服はないようだった
赤司くんの言うことは絶対
それは未だ従順に守られていて、赤司くん的にも考えて配置しているのだろうから、キセキの世代なんて大物でも皆がそれを受け入れていた
「それで、赤司はどこに行くのだよ」
「俺は京都の洛山、だね」
「洛山…」
洛山といえばIH優勝常連校の最強と謳われるそれだ
併せて偏差値75の超難関校である
まさかそんなところから推薦が来るとは、キセキの世代キャプテンの名は伊達じゃない
赤司くんならば普通受験であってもどうせ受かるのだろうけど
「じゃあみんなバラバラっスね〜」
緑間っちと青峰っちはおんなじで俺も近いっスけど、と付け足したあとに黄瀬くんはあることを思ったようでぼくを凝視した
それと同じことを青峰くんも緑間くんも思ったようで
「おい赤司、テツは?」
青峰くんが切り出してくれた
──…そう、影でしかなかったぼくは、持ち前の影の薄さが出て、推薦を貰えていない
貰えても、行くつもりはなかったけれど
「嗚呼そうだった。黒子」
「はい」
赤司くんがぼくに近寄ってくる
何を彼は言うだろうか。
鼓動が早まったというのに、赤司くんがぼくに言ったのは予想外の結論だった