私は奈落の造りもの

□18.冥道残月破
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「殺生丸様!話をお聞きください!黙っておれず、すすんで駆けつけたのじゃ」



すすんでという点は怪しいものの、弥勒の札によって、犬夜叉の肩までやってきた冥加は精一杯声を上げた。

そして、殺生丸の父の真意には触れず事を納めようと、懸命に語る。

だが、その努力も虚しく、殺生丸と死神鬼に言い負かされて終わってしまった。

その後に犬夜叉の指にぐにぐにと押し潰される。

話が終わったと見るや否や冥加の話の間、攻撃の手を止めていた死神鬼が再び武器を振るった。

数多くの冥道が殺生丸に狙いを定める。

初めのうちは上手く冥道を避けながら飛んでいたものの、少しずつ動きを読まれ始め…1つの冥道が殺生丸の左腕をかすった。

これには蓮香だけでなく、邪見やりんまでもが思わず声を上げ、一行の主である殺生丸を案じる。




「ちっ、腕一本だけか」



死神鬼が舌打ちした直後だった。

殺生丸の右手が死神鬼の顔を捉え、皮肉にも父親が壊した顔半分をまた殺生丸によって昔と同じように壊されてしまう。

衝撃で後ろに倒れ込んだ死神鬼だったが、再び上半身を起こして口角を上げた。

顔を攻撃されてもなお、動く死神鬼に…戦いに参加していない面々は驚いている。




「天生牙の秘密…か。心卑しい貴様の口から聞くべきではなかったな。何もかもがいじましく聞こえる」




ゆっくりと武器を片手に握り、立ち上がりながら、不気味に笑う死神鬼。

冥道を放つために妖力を集める。

その間に殺生丸の横へ駆けつけた犬夜叉は先手必勝とばかりに、殺生丸の言葉での制止を聞かず、金剛槍破を放つ。

2人揃った所でここぞとばかりに纏めて葬るつもりらしく、死神鬼が冥道残月破を放った。

金剛槍破の金剛の槍は簡単に冥道に吸収され、目の前に迫る冥道に逃げ場を失う。

唯一残された逃げ場、空へと逃げるがやはりそこも空中では逃げ場が無い。

死神鬼が好機を逃す筈もなく、再び攻撃を仕掛けようと妖力を武器に集中させたときだった。



ドクン…


……ドクン…



脈打つかのように二振りの刀が共鳴し始めた。




それは遠めに見ていた蓮香にも見えていた。

確かに、天生牙と鉄砕牙が共鳴して光を発しているのだ。

まだ2人は空中。

考えあぐねている時間は無い。




「抜け!殺生丸!何かが起こるかもしれねぇ」




戦えと言うのか、鉄砕牙と共に…


いや、鉄砕牙と犬夜叉を救うために…


忌まわしい冥道残月破を捨てるために鉄砕牙から切り離し、そんな天生牙をこの殺生丸に与えておきながら犬夜叉を救えと…?



刀を与えた父や鉄砕牙を持つ犬夜叉に…そして、“戦え”という天生牙に…燃えるような怒りを心の中で感じながら、気に入らない笑い声のする方へと目を向けた。




「闘う気力さえ失ったか。それでいい、もはや貴様に打つ手はないのだからな…。

行け!冥界へ!
おやじの形見の刀を後生大事にかかえたままな!」



死神鬼が渾身の力で放った冥道が空中で逃げ場の無い兄弟に迫る。

だが、これで終わりだとでも言うように、勝ち誇ったように笑う死神鬼は殺生丸の変化に気づかなかった。

それが命取りとなる。

覚悟を決めたかのように目を細めた殺生丸の瞳には先程までの迷いや刀の事での怒りが消え、死神鬼への怒りで満ち満ちていた。

ついに一切の迷いを無くした殺生丸は脈打つ天生牙に手をかける。




父上が何を思い私に天生牙を与えたか、そんなことにもはや興味は無い。

だが、死神鬼…



「貴様のような下衆にくれてやる命はないわ!!!!!!!」




振るった刃が宙を斬り、冥道が姿を現す。

だが、その冥道は…真円を描いていた。




「技が…完成した…」




呆気に取られ、譫言のように蓮香が呟いた。

その後に邪見の賞賛の声も続く。


殺生丸自身も予見していなかったのか、目を見開いて、冥道が小さな石や少し大きな岩を吸い上げていく様子を見つめた。

そして、岩や石と同じように死神鬼の体が持ち上がり冥道へと…吸い込まれていく。


自らの技であった冥道残月破で葬られるとは屈辱的なのであろうが、冥道に吸収されながらも死神鬼は最後の最後に二振りの牙が共鳴しているのを目ざとく見つけ、負け惜しみのように言葉を吐いた。




「哀れだな殺生丸!貴様のおやじはつくづく残酷な事を…!!!!!!!」




その一言で確信した。

父が自らに託した天生牙に隠れた真の目的。
 
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