私は奈落の造りもの

□12.悲しみの花
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あれから半刻が過ぎても相変わらず蓮香は河原で水面を眺めていた。

すると、川のせせらぎで揺れる水面に自分ではない人物が2人映し出された。

その2人は見知った人物で、自分よりこの世界の温かさを知っている人だ。

彼女たちは蓮香を見て話しづらそうに眉間にしわを作って慎重に言葉を選んでいる。




「殺生丸だって何か助けられない原因があったのよ…」

「奈落の分身だから…敵だから…なんでしょ。きっと」

「それは違う!殺生丸はすぐさま神楽を助けようと、天生牙に手を伸ばして抜こうとしてた」




だからと言って、蓮香の姉を救えたかと言うと…救えなかった。

それ以前に、殺生丸は神楽の死をすんなりと受け入れてしまった。




「唯一、私に優しくしてくれた人だったのに…簡単に失った」

「……」

「それと同時に、愛する人も無くした」




表情の読みとれない蓮香の目から涙がこぼれ落ちた。

深い闇の中に沈んだ気持ちも、心もどこか遠くへ行ってしまったかのような感じがする。




サーっと風が駆け抜け、殺生丸や犬夜叉が残る花畑の花々が揺れ動き、空中には白い花びらが舞った。

柔らかな風。

それはまるで…




「神楽姉様…」

「あったかい風だね」

「神楽は死んだんじゃない。自由になったんだ」




本当の自由って何?

死ぬこと?

呪縛から逃れること?

それとも、生きること?




つい先ほど、この下でただ1人の姉が息絶えたと言うのに、憎らしいほどどこまでも続く青い空を仰いだ。

雲一つ無い空にはさんさんと輝く太陽だけが浮かんで見えたが、雲でもない白いモノを見つけた。

その白いモノは舞い降りて来るようだ。




「遺してくれたんだね…姉様」

「これって神楽の羽?」

「白霊山で無くしてしまったけど、神楽姉様は…遺してくれた。私の為に、形見として」

「大事にしなよ。奈落と戦う時に力になってくれるさ」




手の平に収まるほどの小さな羽を潰してしまわないように、両手で包み込み、抱きしめた。



神楽姉様…

絶対に忘れません

神楽姉様への恩ー



 
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