私は奈落の造りもの
□11.最期の風
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静かに風が駆け抜け、木の葉を巻き上げた後殺生丸はふと立ち止まった。
そして、例のごとく邪見は殺生丸の足にぶつかって転けた。
「蓮香…」
「…?」
「あまり遅れるな」
思わずポカンとしてしまった蓮香は我に戻ると再び歩き出していた殺生丸の背中を追う。
今の発言は何だったのだろう…そう考えるが、殺生丸の小さな独占欲が理由などと蓮香は知る由もない。
「殺生丸どうしたんだろ…」
実は独占欲にはそれなりの殺生丸らしい理由があった。
犬夜叉だ。
犬夜叉が近くに来ていることが匂いでわかっている。
向こうは気づいていないようだが、蓮香が居ると分かれば近寄って来るに決まっている。
あんな弟を蓮香に近づける訳にはいかないと殺生丸の本能が言ったのだろう。
「殺生丸っ…やだっ///…ど、うしたの?」
「少し黙っていろ」
「このまま?」
「……」
腰に回された手は容易に蓮香を離してくれはしないようだ。
さすがに腰に手を回されていては平常心を装うのは難しい。
もう一度強く風が吹き、蓮香の黒髪と殺生丸の銀髪がフワリと揺れた。
髪の毛が顔に掛かり、手で必死に掻き分ける蓮香。
殺生丸が手の上に手を重ね、そっと動作を止められる。
「……」
「……チッ」
「……?」
必然的に殺生丸を見つめていたが、なぜか殺生丸が舌打ち。
小首を傾げて殺生丸を見たときだった。
「蓮香さーん!」
「この声…かごめさん?」
声を頼りにかごめの姿を探すと、犬夜叉の背中に乗ったかごめが見えた。
蓮香は軽く手を振るが、表情からして殺生丸は弟の登場を良くは思っていないことが明白だった。
「殺生丸、笑って」
ふくれっ面の蓮香がこちらを見ていて、なんとも言えない愛おしさが込み上げてくる。
「無愛想な顔してるから犬夜叉も突っかかって来るのよ」
「知らぬ」
殺生丸を軽く叱っている所に、かごめが近くにやってきて挨拶をしてきた。
軽く会釈をしながら「こんにちは」と返すと、「堅苦しくしないで良いわよ。私たち、友達じゃない」と言ってくれた。
改めてかごめの心の関大さに触れ、ジーンと温かいものが胸に広がる感覚に酔いしれる。
その後、殺生丸の存在を忘れてしまったかのように犬夜叉一行と話し込み、気づけば半刻も経っていた。
「蓮香…」
「あっ、はい?」
殺生丸の声が聞こえて弾かれたように顔を上げれば、不機嫌そうな殺生丸の顔が上にあった。
「気が済んだのなら、行くぞ」
「ちょっと待って」
この匂い…
蓮香を神楽に会わせる必要がある…
「急げ」
「何かあった?」
「早くしろ」
「う、うん…」
この時、異変を感じ取っていたのは殺生丸だけで、他の誰も気づいて居なかった。