私は奈落の造りもの

□10.大切な想いと思い
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覚束ない手つきで帯を締めた蓮香は神楽の側に寄ると神楽の着物の袖をクイッと引っ張った。




「なんだよ」

「…私、どうすれば?」

「んなの知るかよ。自分で勝手にしな」

「でも…」




袖を握る手を振り払った神楽はそのまま振り返りもせずに蓮香を置き去りにして行った。

瘴気が漂う廊下を歩きながら、心の中では蓮香を気にかけている自分も居る。

だが、それ以上に奈落に従うのは嫌だった。

勝手に作られ、勝手に心臓を握られ、勝手に手のひらで遊ばれる。

生み出された時から自由もなく、生きていて楽しみもなかった。

こんなちょっとした反抗に過ぎなくても、奈落に自分の意志があることを証明したかった。

自分を苦しめる奈落を少し困らせるのも悪くない。

だが、自分と同じように自由が無い蓮香にどこかで同情しているのも事実だ。

だんだんと自分の事に妹を巻き込む自分が馬鹿ばかしく思えてきた。

一度立ち止まり、自嘲気味に笑うと神楽はもと来た廊下を戻り始めた。

そして、蓮香を置き去りにした部屋の襖を開け放ち、蓮香の腕を掴むと強引に外に連れ出した。




「神楽…姉様?」




神楽の後に姉様を付けて呼んだ蓮香。

すると、神楽の眉がピクリと動いた。




「嫌でした?」

「いや、何でもねぇよ」


 
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