私は奈落の造りもの
□18.冥道残月破
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何の変哲もない昼下がり。
先ほど休憩を終えたばかりで、昼餉にと食べた魚が腹に残っており、動き回るのは苦しい。
そのせいなのか、いつもより歩みが遅かった。
「はぁ…苦し…ゼェはぁ」
「邪見さま、やけを起こして魚をいっぱい捕っちゃったからでしょ」
「琥珀とのちょっとした競争なのにバカみたいに捕ってきて…」
2人で責めれば、眉間にシワを寄せて重い腹を抱えるようにして地面にへたり込んだ。
その間も殺生丸と阿吽は遠ざかる。
魚を捕りすぎた邪見は捕ってきた魚のあまり全てを小さな体で食べ尽くした。
勿論、蓮香やりん、琥珀もたらふく食べているのだが、邪見だけが異様な数だった。
杖を頼りに、立ち上がり、フラフラと主を追いかける。
だが、その後すぐに、主の背中越しにムカデ妖怪を見て驚きひっくり返る。
もはや立ち上がるもだるいが、立たなければ危険だ。
「ふふふふふっ、貴様の連れてる小童の四魂の欠片…我が頂く!!!!!!!」
「ふん、下衆が」
殺生丸が天生牙を抜く太刀筋そのままに冥道残月破を放てば、ムカデ妖怪の体半分が冥道へと消えた。
敵に向かっては容赦なく口が悪い殺生丸をいつもの優しい姿からは考えられないとも思いながらも、冥道残月破の裂け目がはじめの頃より遥かに大きくなっていることに完璧な彼らしさを感じる。
だが、最近は殺生丸からいつまで経っても技が完成しない事への苛つきと焦りを感じる事が多かった。
それは邪見も同じようで、殺生丸の様子を伺いつつ常にビクビクしている。
それでも、邪見がビクビクしている事以外は何ら変わりもなく、阿吽がりんと琥珀を乗せ、それをいつものように手綱を握って殺生丸の後を歩いていた。
そんな時。
「殺生丸様、天生牙の足りぬ部分の秘密…お知りになりたくはありませんか?
天生牙の冥道は未だに真円を描いていないはず」
突如、気配も無く目の前に現れた童子。
邪見は殺生丸の後ろでグダグダと文句を言うも、殺生丸に止められる。
童子が何故、己の刀の事を知っているのか、冥道残月破の事まで言及するのかが引っかかっていた。
また己の母のような、技の完成に手を貸す者が現れたというのだろうか。
冥界での一件で少し円に近づいたものの、あれからいくら刀を鍛えても冥道残月破の冥道の裂け目の変化は微々たるものに過ぎなかった。
冥道残月破の完成に必要な何かが欠けているという事には薄々感づいていたが、それが何かも分からずひたすら答えを求めていた。
その答えを持つ者が目の前に立つ童子ということだろうか。
「お知りになりたいのであれば、私の後についていらっしゃいませ」
気づけば童子の向かう方向へ、歩き出していた。