短編

□何もない青い箱
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「このメンバーで飲み会って初めてじゃない?」
「つーか、この学校来てから飲んでねーかも」
「ああ。共に出掛けることはあったが、酒を交わすのは初めてだな」
『それじゃ、乾杯しよっか!』


音也と真斗と翔ちゃんと私の4人で、今日は音也の部屋で酒盛り!
ほんとは皆まだ未成年だから飲んじゃダメなんだけど…大きな課題に皆無事合格して、今年も残すところあと僅か。


言わば今日は、仲良し4人組の忘年会て感じかな。



「「乾杯ーー!!」」


ポコン!と透明のプラスッチックコップが鳴る




「それにしても今回の課題はキツかったよなぁ〜」
「うんうん…あははっ」
『な、何笑ってんの?音也』
「え〜?別に何も!あはははははっ!」
「げっ…もしかしてコイツ笑い上戸か?」
『ていうか、まだ2口も飲んでないのにこれって…どんだけ弱いの!』

「聖川…は普通そうだな」
「ああ、父の社交界によく連れてかれて幼い頃より少量は飲んでいたからな。これくらいは何ともない」
「おっ流石御曹司!」
『じゃあ真斗はお酒強いんだね。音也とは正反対なわけだ』


「俺だって弱くないよ〜?あはははっ」

がばっと音也の腕が私を包む
少しびっくりしたけど、酔ってフラフラしてるから拒絶するわけにもいかずゆっくり手をどかす

『はいはい、酔ってる人は皆そう言うの!』
「おい音也、なまえに絡むのやめろって」

「ん〜?だって俺なまえのこと大好きっ」

どかしたばかりの腕に今度はぎゅっと力強く抱きしめられた

『ちょっと音也ぁ〜…』
「完璧に酔ってんな…ちょっと俺そこの自販機で水買ってくるわ」
『ん。ありがと、翔ちゃん』



バタンッ、とドアの閉まる音がするのと同時に音也が床にごとっとずり落ちた
今、確実に思いっきり顔から床に向かって落ちた

『え、ちょ…大丈夫?』


心配して泥酔した音也に手を伸ばすと
パシッ、と隣にいた真斗が私の手首を掴んだ


『? 何?』

顔を見ると少し頬が赤く染まっているように見える
まさか真斗も酔った?

それよりも気になるのは、真斗の目

なんか今にも泣き出しそうな不安げな表情をしているようにも、何かに怒りを感じているようにも見える
こんな真斗の顔は初めて見る

驚きのあまり、真斗から目が離せない





チュッ




え……
今、キス…された?



『ま…さと…?』

ゆっくりと離れた顔を見ると、さっきよりも顔が赤くなっている
目からはもう感情が読み取れない

ただただ、私を真っ直ぐ見つめている


そっと私の手に真斗の手が重なる

ぴくっと反応するものの、やっぱり真斗から目が離せない
重なった手から鼓動が伝わってくる

少しひんやりとした大きな真斗の手
なのに、触れている部分がこんなにもじんと熱く感じるのは私が真斗を好きだから?



『よ…酔ってるの…?』


真斗が私にキスをするなんて…
少しの期待と不安を抱きながら恐る恐る訊ねると、何も答えずに一瞬少し寂しそうな顔をしてまた唇が重なった


チュッチュッ…


数回唇が重なる
大好きな人とのキス

凄く熱い

唇だけじゃなく、漏れる吐息も、全身も、重なった手も
凄く凄く熱い

キスも熱も、お酒のせい?




真斗の気持ちが分からない

ただ、からかってこんなことをする人ではない



『真斗…私…真斗のこと…』

言いかけて、ぐっと手で口を塞がれる

「……。昨日はクリスマスだったろう?」


遅くなったが、と言いながらごそっと真斗が取り出した手には、小さな青い箱


『これ…私に…?』
「ああ。受け取ってくれるか?」

『開けていい…?』
「……ああ。」


ゆっくり箱を開けると、中には何も入っていなかった
ただ箱の中にある白いクッション素材のもの。真ん中だけ横一直線に穴の開いたそれは、紛れもなく指輪を納める箱であることが分かる。


『これ…』
「中身はまだない。俺がアイドルになったら自分で稼いだ金で買い、お前に渡したいと思っている」


「今は言えない。だが、待っていて欲しい」
『うん…!』


胸がいっぱいになって私は自分でも気付かないうちに涙を零していた
真斗が困ったように優しく微笑みながらそっと拭ってくれた

その後、少しして翔ちゃんが見計らったように部屋に入ってきて皆で音也の介抱をした




何も入っていない青い箱は、私の大事な大事な宝物





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