短編

□お菓子作りも程々に
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「なまえちゅわあぁあぁあん」



『っ!?』

「美味しいケーキが焼けましたぁ!」



名前を呼ばれ何事かと思い、振り向くとふわふわとした人物とその手にこの世のものとは思えない程、毒々しい物体が光の速さでこちらに迫っていた。



『な、那月っ!?それは…ケーキと呼べるものなの!?私には分からない!』

「何言ってるんですかぁ?正真正銘、ケーキですよぉ」

「いやいや!君の目は節穴か!?」

「なまえ、すまん…。俺にはコイツを止める事は出来なかった…」



ふわふわした人物、すなわち那月の後ろから申し訳無さそうに翔ちゃんが現れた。その姿はぼろぼろで、私の為に体をはってくれたんだと思い知らされる。



『いや…、いいんだ翔ちゃん…っ!君はよくやってくれた…!!!お前の事は忘れねぇぜ…!』



「なまえーーーッ!!!」



翔ちゃんの手を握りしめ、表情を曇らせる。瞳にはうっすらと涙を浮かべ…。そして片方の手には、…目薬。





「二人とも、何してるんですか?早く食べないと冷めてしまいますよ〜」



二人の迫真の演技にキョトンとしている那月。まあ、それはいいとして、問題なのは今の発言。



「聞いたかなまえ!!」

『はい!バッチリ聞きました!ケーキが冷めると!ってゆうか、ケーキってこんなにほかほかしてるものなんですか!?』



「そ、そんなハズはない!!」



そう、那月はケーキに冷めると言ったのだ。那月のケーキの場合、ケーキと呼んでいいのか分からないが。





「はぁい。なまえちゃあん(はあと)」



そのまま、私達の迫真の演技を丸々スルーし、那月は毒々しいソレをスプーンで力強く(??)すくい私の口の前に差し出した。



『な、那月、ちょっと待…!』







「那月ストォオォップ!!」



か、髪の…じゃなかった

神の声が…っ!!!!





「もう。なまえには那月の料理食べさせないでって言ってるのに!」



『音也…!!』



おぉ…ッ!!マイダァリン!!!君は私の天使だ…!でも、何故彼がここに…?お陰で助かっちまったじゃないか☆



「すまん、音也。俺がもっと全力で止めていれば…!!」



翔ちゃん…!君も何ていい奴なんだ!!!なんて、心の中で思ってたり。





『二人まとめてぎゅーってしてやるぅうぅッ!!てゆうか、パンツくんかくんかさせろぉおおぉぉおおぉ!!』





「え!?ちょっ…」

「てめっ、何すんだよ!!はーなーせー」



私は驚く二人を無視して、力いっぱい抱き締めた。さりげなく、くんかくんかを実践しているというのは秘密。







「ふふッ。皆さん楽しそうですね♪僕も混ぜて下さい」



『ぐえっ!』





那月が私ごとみんなを抱き締める。地味に私の骨が泣き叫んでます。っていうか、一緒に抱き締められた音也と翔ちゃんがすでに白目なんですけど…。



那月に力強く…っていう可愛らしい言い方で済むような程ではないくらいに抱き締められ意識がもうろうとしてきた頃――。



『んぐ!?』



狙ったかのように私の口の中に入ってきたほかほかのもの。…そう、那月がケーキだと言いはっていた物体。



『んぎぃやぁあぁああぁ!!』



一応言っておくが、コレは美味しすぎて叫んでいるのではない。



「どうですか、なまえちゃん。美味しいですか?」







『…ッ』

な、なんだこの味…。

美味しいぃ!! なんて笑顔で誤魔化せる味じゃないぞ!!!!こう…なんて言うか…。う★コってこんな味なんじゃね☆キラッ

みたいな!!!!!もう、すでに意味わかんないけど!!そんな訳の分からない事を考えていたら徐々に意識が朦朧としてきた。



―――あぁ…ダメだ…。意識が…。





「「なまえ!?」」

「フフフ。気を失う程僕のケーキが美味しかったんですね♪」



「よくそんな発想が出来るな!!!」



「それでは、目が覚めたら詳しい感想を聞きたいので彼女は僕が預かります。それに、新作クッキーの試食もさせたいんで♪」



「「え!?」」















その後、彼女の姿を一度も見たものはいないという。







―――――――――





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