翡翠の誘惑
□通話中… 現代(土沖)
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もう疲れちゃいました。
僕をちゃんと見てくれない土方さんに
僕の話をちゃんと聞いてくれない土方さんに
僕のことを…ちゃんと愛してくれない土方さんに…。
「土方さん……」
「あぁ?うるせえよ今電話中なんだから」
「…」
「ん?あぁ何でもねえよ弟だよ弟、それより……ー…」
弟?
赤面して告白してきたのは誰ですか?
好きだって言ってきたのは誰ですか?
愛してるって僕に言ったのは誰ですか?
「…−…愛してるぜ…−…」
通話中の相手はそれを聞いて頬を染めているだろう。
僕もかつてはそうだった。
近頃、いや、もう随分前から「愛してる」なんて言葉を聞いていない。
もう…良いんだ。
土方さんのいない世界なんて、
もう…良いんだ。
こんな虚しい日々は…
いっそのこと死んだ方がマシなんだ。
うん、そうだ。死のう。
そこからはわからない
気付けばバスに乗っていて
気付けば電車に乗っていて
気付けばどこか遠い遠い海に来ていた。
あぁ…神様が導いてくれたんだな。
靴も脱がずに
海水に踏み込んでいく。
どんどん前に進んでいく。
どんどんどんどん、前に前に、進んでいく。
すでに腰まで海水は浸かっていた。
知らず知らずに涙が溢れて来る。
「土方…さん」
携帯を開いて土方さんに電話をかける。
最期くらい声が聞きたいしね。
プルルルルル…
『あぁ!?なんだよ』
「土…方さん…。幸せでした。」
『え?』
「幸せでした。土方さんに会えて、土方さんと過ごせて」
『総…司、お前今どこだ!?』
「土方さん…愛してます。愛して、ますッ!ゴホッ、ゲホッ!!」
海水が口の中に入ってくる
『総司?』
「愛してま……………」
『おい総司?総司総司総司総司総司ィィィィーーー!!!!…………愛してる!、総司ッ…愛してる!!!』
−大丈夫ですよ−
−聞こえてます−
−僕も…………愛してました−
海の中で泡を吹きながら、
通話中の携帯にそう呟いた
End…