* short

□おず!
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ある日OZの世界をアバターを使ってぶらぶら散歩していたら、人気の少ない穴場スポットを見つけた。

「お、ラッキー」

そこは草原のような場所で、あたりに建物などの建築物が一切なく、のどかな空間が広がっていた。私はアバターをそこに座らせて、さっきお店で買ったアバター用の服を選んでみる。

「んー、あ、これかわいー」

着せちゃおうっと。花柄のふわっとしたボリュームのあるワンピースを着せてあげてみる。すると私のアバターは「気にいったよ!」とでもいうようにくるくるとその場で回って嬉しそうにしていた。か、可愛い!私のアバター可愛い!

「うーん買ってよかった…ってうぉおおおおおお!?」

おっさんみたいな叫び声をあげてしまった。いやだってしょうがない。

私のアバターの後ろにいきなり現れたのは、赤いジャケットを羽織った長身のうさぎアバター。腰にはチャンピオンベルトを巻いていて、強気な表情で私のアバターを見下ろしていた。

「キング・カズマぁあああああ!?」

私が叫ぶと、アバターから吹き出しマークが出て今叫んだ言葉がそのまま打ち込まれてしまった。あ、やべ恥ずかしい。私はどうしていいかわからずに、とりあえずアバターにおじぎをさせてみた。

するとキング・カズマもぺこんと頭を下げる。うぉおおおおキングにおじぎされたぁああああ

“こ…こんにちは”

私はアバターにそう言わせる。するとキングのアバターも“こんにちは”と返してくる。

…うおう!
どうしようかこの次!

“いつも試合見てます。頑張ってください”

とりあえず私はあなたのファンなんですよということを伝えてみた。

“ありがとうございます。まだまだ至らない部分もありますが、頑張ります”

キングかっけぇええええええ!
強さをひけらかさないところとかかっけぇえええ!

“ナナさん、ですよね?”

すると不意に、キング・カズマがそんなふうに私のアバターの名前を口にした。

えぇえええなんで知ってんの!?

“はい、そうです。私のことをご存じなんですか?”

“OZのアバター用の洋服をデザインしている方で、とても有名だと聞いていたので”

そう。私は確かに、学校に通いながらそういう仕事をしている。自分のアバターにハンドメイドで作ってあげていたら、いつかそれがOZの有名な人の目にとまって、今ではたくさんの洋服をデザインしている。

…っていうか。

キングに有名とか言われちゃったぁあああああああああ!!!!

“ありがとうございます。私もまだまだなので、頑張ります”

そう言うと、私のアバターはにっこりと愛らしい笑みを作って笑った。

“キングさんはここで今日、なにをするつもりだったんですか?”

“僕はいつも、ここで試合の練習をしているんです”

“そうだったんですか。じゃあ私お邪魔でしたね…”

“いえ、大丈夫です。僕のほうこそお邪魔して、すいません”

“お邪魔だなんてそんな…私はアバターを着せかえて遊んでいただけですから”

“そのアバターの服、可愛いですね。ナナさんがデザインされたんですか?”

“いえ、これは違います。でも、気にいっちゃって”

“凄く良いと思います”

“キング専用にワンピース仕立ててあげましょうか?”

“いえ、遠慮しておきます”

“(´・ω・`)”

って馬鹿私。キング相手になに無礼なことを…!

“そんなしょんぼりした顔されても…”

“キングにはミニスカートがよかったですかね?”

“ナナさんすいませんキングが怯えてます”

見るとキング・カズマのアバターはがたがたと怯えるような目で私のアバターを見ていた。やべえ私天下のキングを怯えさせちゃったよ!

“じょーだんです、すいません。てへぺろきゃはるん( ´ー`)”

“ナナさん顔文字腹が立ちます”

キングに怒られてしまった。

しかし私もいい度胸だな。この場に私とキング以外のアバターがいたら叩かれてんだろうな(もちろん私が)

“私、実は明日から名古屋なんですよー”

“え…そうなんですか”

“はい。OZの衣装デザインの本部みたいのが名古屋にあるらしくって。うらやましいでしょう名古屋!いっちょ楽しんできます。一人旅行だけど”

“…へえ”

“朝一で出て明日の朝十時にあっちに着く奴に乗るから、今日は早く寝なきゃなんですけど…寝付けなくて”

“遠足前の小学生みたいですね”

“☆〜(ゝ。∂)”

“ナナさん顔文字腹が立ちます”

さっきと一文字も違わずつっこまれてしまった。

“…ナナさんは私服もオシャレなんですか?”

“そうしたいもんですけどねえ。何分まで中学生なんで、お小遣いが足りなくて…明日もTシャツに下はミニスカートですかね”

“そうですか。それは楽しみにしています”

“? なにがですか?”

“いいえ、なんでもないです”

キングはそう言うと耳を折り曲げた。か、かわいい…!

“キングのしっぽもふもふしたいです”

“ナナさん…”

キングは呆れたようにしていた。でもキングファンならだれでも思うよね!

“そんじゃ、私は寝ます。明日は名古屋なんでね名古屋”

“どんだけ名古屋楽しみなんですか…”

“手羽先味噌カツ天むすび!”

“食べ物だけなんですね”

“またここくるんで、お話してくださいね、キング”

“はい。またぜひ”

“おやすみなさーい(´・∀・`)”

“だから腹立つなあ顔文字…”






――・・・



「あ…ナナさん?」

「え、君誰?」

「ようこそ名古屋へ。手羽先も味噌カツも天むすびもあるよ」

「え…えええええ!?」






おず!
(き…キング!?)
(気になったから会いにきたんだ)
(マジかよぉおおお!)

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