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□4.孤独はんばーぐ
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『ゆうこちゃん、偉いわね。百点とったの?』

『うん!お母さん、私頑張ったよ!』

『あなたはうちの自慢の娘だわ』

テレビの向こうでお母さんがほほ笑む。私の知らない小さな子役さんに向けて、優しい母親の慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

「結衣のお母さん、凄いね…」

「ね…最近またドラマとか映画とか出るようになっちゃって…」

ほぉ…と感嘆の息をもらしながら画面を見つめる。

佳主馬くんと向かい合ってつつく食卓にはお互いのお皿にハンバーグ。本当は食事中にテレビをつけるのはあまりよくないことなのかもしれないけれど、今晩は私のお母さんが主演のドラマが放送される日だったので、佳主馬くんに断ってつけさせてもらったのだ。

「私でさえ言われたことないや…」

「え?」

「百点とって偉いねー、とか、あなたは自慢の娘よ、とか」

「…そっか」

「羨ましいなぁ」

テレビの向こうの子役さんに嫉妬、だなんて、バカみたいだけど。そうつけたすと、佳主馬くんは箸を口に運びながらも「そんなことないんじゃない?」と言ってくれた。

「母親に褒められたいと思うのは、どの子どもでも同じだろうし…」

「え、なに佳主馬くんも?」

「…うん」

こくん、とうなずく佳主馬くん。
く…っこいつ…!可愛すぎる!

「…お母さんとここ数カ月、まともに話してないや」

「でも、ここが結衣のお母さんの家なんでしょ?なんで帰ってこないの?」

「…ここは物置みたいなもの。仕事場のテレビ局に近いところにおっきい一軒家たててる」

「なにそれ…酷くない?」

「しょうがないよ、忙しいんだもん。それに、お母さんに会いたいと思っても、いつでも会えるからさ」

テレビに目をうつしながら「えへへ」と笑うと、佳主馬くんはなんとも言えない苦い顔をした。

そんなんでいいの?

彼は私にそう問う。そんなんもなにも、こんなんなんだからしょうがないじゃない。そう返して、私は食事に戻った。

「…まあ、結衣がそれでいいならいいけど」

「佳主馬くんのお母さんはどんな人?」

「え?」

唐突に話題を振られて、少し怪訝そうにする佳主馬くん。このクールな少年が素直に甘えることのできる母親がどんな人なのか、私は純粋に興味があった。

「どうって言われても…普通の主婦だよ」

「へえ…ってもっとほかにないの?」

「…最近は妹ができたから、ずっとつきっきり…かな」

「…ふうん」

「今までは僕がPCに張り付いてたら、目が悪くなるわよ、とか、いちいち声かけてきてたのに…それもなくなって」

「寂しいの?」

「なっ、ち、違うよ!」

顔を赤くして大きな声でそう言う佳主馬くん。
これは図星だな。

「うんうんわかってるよ佳主馬きゅん、寂しくなんてないんだよねー?」

「ちょっと結衣ニヤニヤしないでくれる…?」

あと佳主馬きゅんて呼ばないでよ。そう言いつつも頬が赤い佳主馬くんを茶化すように「かーわーいー」と笑うと、思い切り睨まれてしまった。こえー。

「僕は寂しくなんかないから」

「強がるなよ少年」

「う、うるさいな!大体結衣にそんなこと言われたくないよ!」

「え、なんで?」

「結衣だって寂しいくせに…」

「そんなことないよ」

「ウソつくなよ」

はあ、と息を洩らす佳主馬くん。私は、はてなと首を傾げる。

「私寂しいなんて思ったことないよ」

「ウソじゃん


「ウソじゃない」

「会いたくて仕方がないからこんなにたくさんビデオため込んでるんでしょ?」

佳主馬くんが指さすのは、テレビの横に置いてあったビデオケースの山。いまどきビデオなんてもう使えないから、それらは存在の意味を既になくしているのだけれど、どうしても捨てられずにいたものだった。

「それは、ただ単に自分の母親だから…」

「まあ、そう思いたいならいいんじゃない?」

「なにそれ…」

「ごちそうさま」

佳主馬くんは箸を茶碗の上に置いて手を合わせる。食器を台所に持って行き、洗剤で洗いながら口を開く。

「結衣、僕この後試合あるから」

「あ、そうなんだ…頑張って」

「うん、ありがとう」

に、と笑ってお皿を戻し、手を拭いてリビングを後にしてしまう。

残された私は一人で妙な孤独感に包まれながら、ハンバーグを食べていた。

「…なんだったんだろう、佳主馬くん」










孤独はんばーぐ
(慣れているから寂しくないんだ、)

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