皆様本がお好きな様で
□宮沢賢治…注文の多い料理店
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私の背では届かない所は、椅子を使って本を入れる。
買い取った古本を本棚に入れ終わった時、それは起こった。
ーぐらり
私が椅子から落ちそうになっている様は、正にその擬音で表すことができる。
「……あれ?」
そしてその場合、私は身体を地面に強かに打ち付けるか、下手したら重傷を負う筈である。だが、身体はどこも痛くなく、強いていえば少し衝撃があった位だ。
もしや………。
「三成さ、」
ん、まで言い終わる前に顔を上にあげると、不機嫌そうな顔をした彼が直ぐそこにいた。
「……今回は本当にひやりとしたぞ」
「す、すみません……」
ここでアルバイトとして働いている青年、石田三成さん。
私より4つ年下ではあるが、大人びた所が多々あり、それに自分の相手を敬語で対応する癖も相まって、まるで年上に話しているかのようにいつも彼には話しかけていた。
「全く……少しは警戒心を――
「こんにちはー!!」
……まずはあの馬鹿を斬滅してくる」
「おお三成こんにちは!……顔が怖いぞ!」
「黙れこの年中五月蝿い絆廚め!!ここをどこだと思ってるんだ!静かにしろ!」
「三成も十分静かじゃないと思うぞ!」
来て直ぐに三成さんに罵倒されている青年は、徳川家康さん。この店の常連さんだ。
「大丈夫ですよ、店に誰もいないですし」
「……戸上、それのどこが大丈夫なんだ……」
そうやり取りしていると、次は大谷さんもやって来た。
「…ヒヒッ、来た傍から面白いメンツが集まっておるなァ」
そして、呟く。その考えも一理ある。
最初は一人で何となく寂しくやっていたのが、こんなにも賑やかになるとは私も思っていなかった。
……相も変わらず、客はあまり入ってこないが。
「それだったのなら、客を騙して食うがよかろ」
「そんなこと、する訳ないじゃないですか……」
大谷さん恐ろしや。『客を騙して食う』なんて、宮沢賢治の『注文の多い料理店』を連想させてしまう。
「………戸上、本談義でもしている場合か」
「いいじゃないか三成、ワシは興味あるぞ」
「…掃除でもしてくる」
呆れたようにため息を吐いた後、三成さんは外に出ていこうとする。
「私も……」
「おい馬鹿、二人出たら接客はどうする」
「あ、そうですね、ごめんなさい」
「別に謝ることではない」
そう言い残し、三成さんはほうきとちり取りを持ち、外に出ていった。