SHORT
□守ることもできないなんて
1ページ/1ページ
「あの、もういいです」
ベッドの上で伊勢七緒は呟いた。
しかし、傍らの京楽春水は首を縦に振らない。
というのも七緒がベッドの上にいるのは京楽の責任だからだ。
京楽が仕事をサボり、代わりに七緒が激務をこなしていたのだが、身体がついていかずに七緒は高熱で倒れたのだ。
京楽からすれば看病はただの罪滅ぼしだが、生真面目な七緒はそうはいかない。
最初は素直に嬉しかったものの、徐々に隊長に看病させるのは…と思い始めたのだ。
「ボクのせいなんだから看病させて頂戴よ」
そう言って京楽は水に濡れた布を絞り、七緒の額に乗せた。
冷たい感覚が七緒に伝わる。
七緒が京楽の表情を盗み見ると、いつもと打って変わって真剣そのものだった。
京楽の武器はそのプレイボーイさとギャップだ。
だいたいの女性はそれで惚れる(らしい)。
が、七緒はその少数派の人間だった。
「隊長はお仕事にお戻りください!!
副隊長の私は情けなくも倒れ、隊長までもが看病でいないなんて八番隊は混乱の極みです!!!」
七緒が身体を起こした。
頭痛でガンガンする頭を支え、京楽の目に訴える。
これは七緒の武器で、だいたいの男性は落ちる。
そして京楽はその大部分の人間だった。
仕方なく頷き、七緒に顔を近づけた。
「じゃあ、キスしてからにしようか?」
京楽の提案に七緒は少し怒ったように眉をひそめ、ゆっくり首を左右に振った。
理由を聞かれる前に言葉を繋ぐ。
「隊長に風邪を移したくありません」
京楽は渋々頷き、仕事に戻った。
しかし、七緒の事は頭から離れない。
守れなかったのだから。
別に外傷や体調のことではない。
自分が全てせねばならないという使命感・責任感・プレッシャーから守れなかった。
七緒を苦しめるのは外側の傷より内側の傷だ。
それから救えるのは彼女にとって大切な存在。
それは京楽ではないかもしれない。
それでも京楽は七緒を守るつもりだ。
内側を救える人間が現れるまで、七緒の外側は守るのだ。
そう京楽は決めた。
『守ることもできないなんて』
END
ーーーーーーーーーーーー風邪ネタ〜。
隊長、ヘラヘラしてる割には優しい。
タイトルはお題配布サイト「Dear.」の鈴木様に頂いたものです。