SHORT

□永遠なんてただの戯言で
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夏の蝉の声が木霊す。


伊勢七緒は執務室の書類整理をしていた。


もう捨ててもよいもの、保存しておくもの、京楽春水の溜めたもの。


素早く的確に分けてゆく。


とはいえ、暑さのせいで体力も集中力も驚くべきスピードで奪われていく。


このままでは効率が悪いと七緒はソファに座り、額の汗を拭った。


そして、机の上にあった本を何気なくペラペラとめくってみる。


何か挟んであったため、あるページが開く。


裏向きの何かを手に取り、ひっくり返してみる。


「あ……」


思わず声を出してしまった。


それは写真だった。


八番隊隊長・京楽春水と元八番隊副隊長・矢銅丸リサが写っている。


七緒から見た二人はまるで恋人同士だった。


しかし、随分と昔にリサは虚化してしまった。


リサと面識のあった七緒は泣き崩れたが、京楽は強かった。


思い出すと、七緒の胸がチクリと痛んだ。


「七緒ちゃん」


「京楽隊長……」


いきなり現れた京楽に七緒は驚かなかった。


ただ慌てて写真を隠す。


怒られるからとかではなく、単純に見てはならないものだったのではと思ったからだ。


京楽は何も言わず、七緒が途中で置いていた書類を分け始める。


七緒は慌てて写真を本に挟み、京楽を手伝った。


「見つけちゃったんだねー、写真」


京楽は目すらも七緒に向けず、手を動かしながら言った。


七緒は直感で、あれは見てはいけないものだったのだと悟った。


ただ素直に「ごめんなさい」と謝罪する。


すると京楽は笑って七緒の方へ向いた。


「いいんだよ、別に。
七緒ちゃんに思い出させたくなくて隠してたんだけどね。

でも、本当はボク自身が思い出したくなかっただけだったみたいだ」


そう言って京楽は苦笑した。


その表情に思わず七緒は目を逸らしてしまった。


「永遠に守るって言ったんだけどねー」


「永遠なんてただの戯言かもしれませんけど、でも、その言葉だけでも意味はあると思います」


そう言って七緒は京楽を後ろから抱きしめた。


強そうに見えて脆いこの人の傍に私は永遠にいる。


『永遠なんてただの戯言で』


END

ーーーーーーーーーーーーリサちゃん登場!

今回は弱気な京楽隊長でした。


タイトルはお題配布サイト「Dear.」の鈴木様に頂いたものです。

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