SHORT

□結局は片想い
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「どう…しよう……」


珍しく頭を抱えて悩んでいるのは伊勢七緒だ。


職務を終え、帰るべきなのにそうできない理由がある。


そんな七緒の手の中には、不器用ながらも可愛くラッピングされた小さな箱がある。


中身はチョコレート。


今日はバレンタインなのだ。


いつも買ったもので済ませていて、今回も既製品だ。


ただ一つ……今手に持っているもの以外は。


今手の中にあるのは手作りで、京楽春水…彼女の隊長に渡すものだ。


毎年既製品で京楽には残念がられているので手作りにした。


ただ、慣れないために見た目はイマイチかもしれない。


味は大丈夫だが……。


そんな心配があるために彼にチョコレートを渡せないでいるのだ。


そんな七緒の横をスッと一人の女性隊員が通った。


この先は京楽の部屋しかない。


無意識に七緒は目で彼女の姿を追っていた。


彼女が扉を叩くと、部屋から京楽が出てきた。


悪いと思いながらも七緒は目を凝らし、耳を澄ました。


「京楽隊長、コレ……どうぞ」


そう言って彼女は袋を手渡した。


可愛くラッピングされていて、中が透けて見えるもの。


中は手作りであろうチョコクッキーがたくさん入っていた。


貰った本人の京楽は嬉しそうに破顔している。


それを見た七緒は思わずその場を離れた。


自分の部屋に行く途中で、チョコレートの入った箱ごと捨てた。


七緒は寝台の上で虚ろに天井を見上げる。


なにが「ボクの七緒チャン」よ。
京楽への怒りが募る。


あんなのに私のが敵うわけない。
捨てたチョコレートとあの女性のチョコクッキーを比べる。


自分なんて大嫌い。
京楽に思いを寄せた自分への嫌気。


色んなものが合わさって一粒の涙となり、七緒のこめかみへ流れ落ちた。


きっとこんな私を彼は気にもとめていない。


七緒はそっと目を閉じた。


『結局は片想い』


END

ーーーーーーーーーーーーバレンタインじゃないけど。

捨てたチョコレートは京楽隊長が見つけて、食べました。


タイトルはお題配布サイト「Dear.」の鈴木様に頂いたものです。

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