SHORT

□恋は女を美しくするのです
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「七緒、最近綺麗になったんじゃない?
胸は相変わらず控え目だけど……」


死神である伊勢七緒は親しい死神の松本乱菊と立ち話をしていた。


乱菊の言葉に思わず自分の胸を両手で隠す。


両手で収まってしまうというのも切ないが…。


乱菊はそんな七緒を見て、意地悪い笑みを浮かべた。


また何か考えている…。


直感で七緒はそう思った。


そして、それはあながち外れでもない。


七緒はくるりと踵を返したが、乱菊が逃すはずもない。


「恋でもしたのォ、七緒?」


七緒は全力で首を横に振る。


脳裏に京楽春水の姿が浮かぶのは気のせいだと自分に言い聞かせて。


そんな心情を知ってか知らずか乱菊は七緒にリップを差し出した。


「何……ですか、コレ」


「リップよ、リップ。
男ウケいいから使ってみなさいよ。
例えば京楽隊長とか?」


顔が赤くなる前に七緒はそれを受け取り、「ありがとうございます」と早足にその場を去った。


しばらくして、やっと胸の動悸が収まってきた。


手の中のリップを見つめる。


蘇る乱菊の言葉。


半分興味、半分本気で七緒はソレを使ってみた。


対象は京楽……。


その夜、七緒は京楽の元を訪れた。


仕事で訪れるときは何ともないのに、プライベートとなると気恥ずかしい。


中に入ると早速、京楽が口を開いた。


「七緒ちゃんから来てくれるなんて嬉しいなぁ。ん?リップを使ってるのかい?」


京楽の問いに頷くと、京楽は似合ってると言って笑った。


これならリップを使った甲斐があったかなと考えていると、不意にソファの上に押し倒された。


目の前には笑顔の京楽がいる。


「誰のために使ったんだい?」


問いに答える前に口づけられる。


いつもよりも甘くて強い口づけに、脳まで甘く蕩けそうになる。


丁度、酒に酔った感覚に似ている。


「そういえば七緒ちゃん、最近綺麗になったねェ……。
恋でもしたのかい?」


乱菊には首を横に振ったけれど、京楽の前では頷いてみせる。


京楽が「へぇ」と笑った。


今から全ての言動を原因不明の酔いのせいにしようと七緒は誓った。


「恋は女を美しくするんですよ、隊長?」


わざと挑戦的な上目遣いで見つめる。


当然の如く京楽は相手を問うた。


七緒は悩む素振りを見せるが、端から教える気などない。


「いずれ分かりますよ」


そう言って微笑むと、京楽は「残念だなァ」と言って笑った。


本当にいずれ分かるだろうから今は教えない。


そう、もう少し先……。


貴方自身が気づくまで……。


私の恋の相手は京楽隊長だから……。


『恋は女を美しくするのです』


END

ーーーーーーーーーーーー乱菊ちゃん登場!!!

リップは普通のやつです。

媚薬とか入ってませんよ、多分(笑)


タイトルはお題サイト「Dear.」の鈴木様に頂いたものです。

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