SHORT

□気持ちなら誰にも負けません
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「伊勢副隊長……」


その日はいつもと変わらない朝の筈だった。


いつものようにサボリ魔の上司、京楽春水を探すため伊勢七緒は外へ出た。


と言ってもどこにいるのか察しはついているからその場所へ行くだけ。


声をかけられたのはその途中だ。


声の方向に向くと、違う隊の女性平隊員がいた。


何やら深刻そうな顔をしている。


悩み事云々を私にするなら間違いだと七緒は思った。


だが、すぐにその理由を知ることになる。


「伊勢副隊長は京楽隊長のことをどう思っておられるんですか?」


「別にどうも」


また手を出したのかエロ親父と内心悪戯を吐きながらも、冷静に言葉を返す。


少しだけ、相手の気が緩んだ気がした。


相手は一つ深呼吸して、七緒の前に立った。


何だろうと相手を見据える。


「京楽隊長は私が頂きます!!!」


そう女性は言い切った。


その様を見て七緒は京楽に呆れ果てた。


こんなにも純粋な女性に手を出す無粋な男。


なのに、こうしてはっきり言われると京楽を渡したくない。


副隊長としてか、女としてか……それは今は関係ない。


ただ、彼は渡したくないという心理だけが働いた。


「悪いのだけれど、貴女に京楽隊長はあげられない。例え私が隊長を好きでなくとも」


「なら……力付くでも頂きます!!!」


そう言って女性は短刀を取り出した。


恋は盲目というけれど、正直、副隊長クラスに短刀で挑むことをするとは思わなかった。


無謀以外の何でもない。


当然、七緒も攻撃をかわすだけにして相手から諦めるのを待つつもりだった。


だが、相手が京楽への愛を口にする度にイライラして、ついに手を出した。


攻撃しようと相手に手を翳した時、目の前に見慣れた羽織りを着た男が現れた。


「止しなよ、七緒ちゃん」


「京楽……隊長……」


京楽が現れた事で七緒に理性が戻る。


だが、京楽が相手を気遣うのを見てまた腹が立ってくる。


こちらが強いから当然だが、悔しい。


理由は分からなくても悲しく、自分が惨めに思えてくる。


なんで私じゃないの?と京楽にさえ怒りが沸いて来る。


そんな自分が嫌になって叫びそうにもなる。


モヤモヤしたまま七緒は女性の元へ歩み寄り、「ごめんなさい」と呟いた。


そして、京楽が二人から目を離した。


京楽が視線を戻した時に目に入ったのは血だ。


真っ赤な。


「何……を……?」


七緒の腹部から女性が短刀を抜く。


七緒は激痛に目をギュッと閉じ、うずくまった。


「うッ……!」


声にならないうめき声を上げ、荒い息のまま女性を見上げる。


そのまま七緒は意識を手放した。


次に起きた時、七緒はベッドに横になっていた。


目の前には四番隊隊長・卯ノ花烈がいた。


卯ノ花は簡単に状況を説明してくれた。


自分を刺した女性もそのあと自害しかけ、そちらの様子見に京楽は行っているらしい。


「大丈夫ですか、七緒さん?」


卯ノ花の問いに大して痛みはないと答えると、卯ノ花は首を振った。


「傷ではなく、心のことです。何なら京楽さんを……「大丈夫です」」


卯ノ花の言葉を遮るなんて恐れ多いと思ったが、今は構わない。


この傷は京楽のせいでも、あの女性のせいでもない。


自分の不甲斐なさのせい。


あの時少しでも自分は死にたいと思った。


けれど、今は違うから。


彼が気づかなくてもいいのだ。


京楽を最も愛しているのは自分なのだから。


卯ノ花が少し笑った気がした。


『気持ちなら誰にも負けません』


END

ーーーーーーーーーーーー長ッ!!!

浮気性の隊長……。

七緒ちゃんは自分の気持ちに気付いてない割に隊長さんを手放したくないと。

卯ノ花隊長は七緒ちゃんを応援してます(笑)


タイトルはサイト「Dear.」の鈴木様に頂いたものです。

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