SHORT

□「好き」たった二文字なのに
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「貴方はバカです……」


そう呟いた伊勢七緒は傍らのベッドで眠る京楽春水の髪を梳く。


今は服を着替えているから分からないが、彼の体には大きな傷がある。


七緒を庇って受けたものだ。


四番隊の治療で今は落ち着いている。


意識も明日には戻るだろうということだ。


七緒は着物の上から傷をに指を這わす。


その瞬間、背後に気配を感じ、七緒は振り返る。


「卯ノ花隊長……」


そこに居たのは卯ノ花烈だった。


少し部屋を見渡してから七緒を見つめる。


「見舞い……看病……ご自由ですが、少しは休まなければなりませんよ」


夜中1時を回り、四番隊の看病が終わってから二時間経つが、京楽の額にあるタオルは濡れている。


卯ノ花は直ぐに七緒が休まずに看病していることを悟る。


七緒は少し笑った。


「大丈夫です。京楽隊長を傷つけたのは私ですし、一晩くらい……」


そんな七緒を見て、卯ノ花は一つため息をつく。


「京楽さんが貴女を庇ったのは先に貴女が隊員を庇って重傷だったからですよ?

京楽さんより軽いとはいえ、本来貴女も休むべきなのですから」


「京楽隊長の為なら、私なんていいんです」


卯ノ花は無言で部屋を立ち去った。


再び訪れた静寂に七緒は、妙に京楽の声が聞きたくなった。


そしてその唇に己の唇を近づける。


それでもそこから先に進めない。


しかし、何か強い力に引かれて唇が重なる。


慌てて唇を離すと、京楽が笑っていた。


「隊長……?明日まで意識は戻らなかったんじゃ……」


「だって七緒ちゃんが寂しそうだからさぁ……。
ホラ、もう一回しようか、キス」


七緒はフイと顔を離した。


京楽が顔をしかめる。


「人の心を利用して……!
サイテーです!!!」


わざとバタンと音を立て、病室から出る。


それでも、その場から動けない。


本当はあの大きな腕に……温かい体温に包まれたいのにできない……。


想いさえ告げられない。


臆病な己の心……。


どうして素直に言えないのだろう。


『「好き」たったニ文字なのに』


END

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このタイトルはお題配布サイト「801個の落書き」の深咲様に頂いたものです。

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