Fallen spirit

□第三話 -旅-
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静かな夜。

青峰がふと目を覚ませば高尾隣で眠っていた。
だが、今吉がいない。


『〜…』


「ん…?」


聞き覚えのある声に起きあがれば、頭をかきながら声のする方へと向かった。





『貴方の元へ花を届ける それは私の愛の花』


「…う、わ…すげぇ」


少し歩いた丘の上。月明かりに照らされて今吉はいた。
青峰が感嘆の声をあげたのは今吉の足元に花が咲き誇っていたから。

そして花は今吉が歌を紡ぐ度に風に吹かれて揺れていた。



『貴方のために花を摘む 花の命を貴方に捧げ…って青峰!!?』


「ん?止めんなよ」


見惚れていると、今吉が青峰に気づいたらしく歌を止め声をあげる。


「せ…せやかて…」

「……その歌って…?」

「いや、昔…誰かがワシに歌ってくれてて…」


うろ覚えやけど、と今吉は苦笑した。
その割に上手かったぜ、と言おうとしたとき今吉が「あ」と声をあげる。


「花、枯れてへんな」

「は?」

「この辺の花、土地が悪かったらしくて枯れかけてたん…だから」

「歌ってたのか?」


そう聞けば今吉は空を見上げて「たぶんな」と呟いた。
つくづく変わった奴だ、と思う。


「よかったじゃん、咲いて」


「…ああ」


「あ…」


青峰の言葉に薄く笑った今吉。
その表情が月明かりに照らされて、すごく綺麗で、青峰は顔に熱が集まるのを感じた。


「…ん、どした?」

「っあーいや!?いや…、そっそろそろ寝たほうがいいだろっ!!」


ごまかすように言えば今吉は首を傾げて「見張り…」と呟いた。


「オレがやるからいいっ!!」


赤くなった顔を見られないよう横を向く。
今吉はきょとん、としたあとクスクスと笑った。


「……おやすみ」

「はっ早くいけよ!!」


青峰は今吉を直視できなかった。
そういえば、あの時、キスしたよな。


「っはぁ…わけわかんねぇ…」







「笠松センパイ、もう少しで…No.8を捕まえられる…」


黄瀬は呟いた。
けれど、何も返ってはこない。
ただ細く寝息が聞こえるだけ。


「そうすればっ…そうすれば貴方と会えるっ!!」

「黄瀬…もう止めろ…」

「うるさいッ黙れッ!!!!……森山さんは黙っててください…」


森山はびく、と体を揺らして小さく謝った。その肩を後ろから小堀が支える。
早川はそれを見て黄瀬に飛びかかりそうになっていた。


「オレは…笠松センパイがそばにいなきゃ…一緒にいなきゃ…」


「だけどおまえはこの世界の皇だろ!!!」


早川が早口ではあるがそう叫ぶ。


「…関係ない……国民がこの人を追い込んだんだッ!!」


黄瀬は早川に負けないくらいに叫べば、眠ったままな笠松の頬に優しくふれた。


「愛してるっスよ…」



交じり合う、祈りと想い。
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