Fallen spirit
□第二話 -苦-
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でていかないと、ここから。
そうでなければ巻き込んでしまう、自分を助けてくれた恩人たちを。
今吉は朝、戸を叩く音で目がさめ、様子をみようと部屋から顔を出したところ軍人と青峰たちが会話しているのが聞こえた。
自分を匿ってくれた二人にこれ以上迷惑はかけられない。
軍人は帰ったらしいが、二人の会話が耳に届く。
「No.8、今吉さん、なの?」
「まぁ…そうとしか…いえないな」
その言葉に息が詰まった。
二人とは、もう、いられない。
そう、思っていたのに、思っているのに、
体は軍人をみて極度に緊張していたらしく、ふらりと力が抜けその場に座り込む。
「…ちょ、っ…今吉サン!!?」
気がつけば今吉に気づいた青峰が驚いたように駆け寄ってきていた。
「…青峰、ワシ、ここからでていくわ」
「はぁ!?…でてってどこに行くんだよ」
「西の街に昔の知り合いがおる。…から」
その友人が今現在、本当にあの街にすんでいるかはわからない。ただ、他に頼りがなかった。
騙しているような罪悪感で胸いっぱいになり青峰の顔は見れなかった。
「……べつに、でてけばいいんじゃね?」
「…っ」
居間からは見えないようだが高尾が心配そうにしているのがわかる。
そっちに意識をそらそうとしてもやはり青峰の言葉に、どきりとさせられた。
そうだ。勝手に出ていったっていいのに。
「……そんなに行きたいなら行ってやるよ」
「へ?」
「アンタが何者なのかはわかんねぇ。アンタがいわないならそれでいい。…けどオレはッ!!」
青峰が肩をつかんでくる。痛いくらいの強さ。なのに、心地よい。
「…なぁ、オレの顔、ちゃんと見ろよ」
「…いやや」
「…なんで」
「っ今、お前の顔見たら………一緒に、行きたくなる、から」
情けないくらいに震えた声が出た。
こんな情けない顔なんてもう上げれないに決まってる。
「…それでいーから。一緒に行こうぜ」
「っけど巻き込みたく、ないから…」
「…まず、顔あげろ」
「…っな、…ん」
顎に指を這わせられたと思えば、そっと持ち上げられて唇がそっと触れ合った。
「っ!!!?」
「…よう、久しぶりの顔だな、…よし話の続き!」
「…っアホ」
心臓がうるさい。痛い。
「アンタが何も言わないならそれでいい。けどな、オレは知りたい、アンタを」
青峰のまじめな顔。ああ、自分はもう、彼から抜け出せない。
「アンタの痛みとかがわかるわけないけど、わかんないから、知りたい」
「………て、」
「は?」
「ワシかて、っ、考えとるんや!!巻き込みたく…」
「…巻き込まれてやるよ」
ニヤリと笑った目の前のオレ様男は、そっと今吉の頭を撫でた。
そして、また唇が重なり合う。
涙が、頬を伝ったのはきっと嬉しかったから。
もう、巻き戻せない。
ねえ、君が本当の僕を知ったとき、同じようにキスしてくれますか?