Fallen spirit

□第五話 -味-
1ページ/1ページ



『笠松センパイっ今日も教えて欲しいっス!』

『ったくしょうがねぇな…こうやって、ほら』

『すごいっスすごいっス!!どうやったら簡単に魔術は扱えるんスか!?』

『教えてやるよ、もう少しお前が大きくなったらな』

『はいっス!!絶対に教えてくださいねっ!』





「笠松さん、もうオレ、あと二年で笠松さんと同い年っスよ…?」


黄瀬は眠るように横たわっている笠松に優しく語りかける。
大きくなったでしょ?そう笑いながら笠松の額に指を滑らせた。


「センパイ、教えて欲しいんス、たくさんたくさん」


だからねぇ、起きてよ。


「ずっとずっと待ってるんスよぉ…っ」


ぼろぼろと黄瀬は涙をこぼした。
止めることができなくて目を擦ろうとする。


『泣き虫な黄瀬に教えてやるよ、泣いたら目は擦っちゃダメだ』

『なんで?』

『目が腫れてかっこわるくなるからな、オレはかっこいい黄瀬の方が好きだぞ?』


思い出した言葉に、はたと動きを止めて笠松の手を握ればずるずるとしゃがみこんだ。


「アンタの思い出しか…ないんス…っ」


お願いだから、ここに戻ってきて。





「ひっ…ごめんなさいっごめ、なさ」

「…っ!!森山落ち着けお前の所為じゃない」

「…こ、ぼり」


ベッドの中、震える森山を小堀は抱きしめた。
背中を撫でてやれば不規則だった呼吸は少しだけ正常に近づく。


「笠松、笠松、笠松、ごめんなさ…い」

「…森山」


小堀の腕の中で狂ったように謝り続ける森山。
小堀は耳を塞ぎたくなるのを堪えてまた抱きしめる。


「小堀、笠松が死んだんだ、オレが止められなくてオレの所為で」

「違う…森山、やめてくれ」

「黄瀬が、黄瀬がオレの首を締めて、死ねっていうんだ」


それは森山の夢の話だ。
それでも森山は小堀の胸板に額を押しつける。


「オレの所為で笠松は」

「…馬鹿野郎」


涙でぐちゃぐちゃなその顔を小堀は自分の胸板から離すと未だに己のことを責めるために動く唇に口付けを落とした。


「…由孝、オレがずっと一緒にいるから」

「っぅ、…ごめ、んっ…」

「愛してる」


小堀が頬を撫でれば嬉しそうに悲しそうに痛そうに森山は笑った。




泣かないでお願いだから、なにがあっても僕が君を守るから。




next→

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ