黒子のバスケ

□巡り巡って今日も晴れ
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黄瀬君はたまにふと、消えてしまう。

それは涼太が消えるということではなくて

黄瀬ちんの表情が消えてしまうっていうこと

アホアホな黄瀬が笑うとかそういうことを忘れたときアイツを

どうしてもオレは好きになれないのだよ。


そしてそれはきっと、キセキの世代の誰もが同じことだと思います。






「…あれは黄瀬君?」


部活がオフの日の放課後。
屋上に人を見つけた。
目が悪い方ではない黒子はすぐにそれが誰なのかを悟る。


あれは黄瀬くんだ。


風になびく金髪は夕焼けに染まっている。
黒子には痛いほどの綺麗な夕焼けを黄瀬が背負っているようにしか見えなかった。


隣にいた青峰も同じことを思ったのか小さく息を飲む音が聞こえる。


「黄瀬…」


黒子が青峰をみれば青峰は何処か辛そうな表情をしていあ。
ああまたきたのか、と黒子も表情を曇らせる。


「テツ、行くぞ」

「はい」


黒子は返事をして走り出した。





「赤ちん、あれ」


紫原の長い指が示す先には夕焼けを纏った黄瀬の姿。


「…涼太」

「また、かな、どうする赤ちん」


紫原はこてん、と首を傾げる。
その子供のような仕草にふ、と赤司は静かに笑みをこぼせば行こうか、と紫原の手を引いた。





「黄瀬、帰ろう」


黒子と青峰が屋上についたときそこには黄瀬と、緑間がいた。
緑間の口調にいつものような厳しさはなく、あるのは諭すような優しさだけ。


「緑間君…また、ですか?」

「多分な、オレが来たときにはすでにああだった」


三人が向ける視線の先には屋上のフェンスに指をかけ、こちらに背を向ける金髪。
まるでこちらの会話が聞こえてないかのような、そんな背中。


「黄瀬」

「黄瀬君」


青峰と黒子が呼びかけるが反応はない。
緑間が小さくため息をついた。


黄瀬はたまにこうなってしまう。

表情も感情も何処かに置いてきたかのように、全てに無関心になる。
いつもの天真爛漫な黄瀬は時々、その姿を隠してしまうのだ。

バスケをしているときは全くといっていいほど無いのだが
練習がない日や学校生活で、たまに起こる。


無表情で心がない時の黄瀬は、黄瀬じゃない。


少し前にそう呟いたのは誰だったか。



「…呼んだ?」


ふと何秒も遅れて黄瀬がゆっくりと言葉を紡いだ。
その声は抑揚も感情もないただの機械音のようで、三人の背中に何か冷たいものが走った。


「涼太、大丈夫かい?」


今までここになかった声に黄瀬以外が振り返ればそこにいたのは赤司と紫原。
珍しく紫原は菓子類を持っていない、それどころか眉間に皺を寄せ難しい表情をしていた。


「涼太」


ぴくりと黄瀬の肩がはねた。
そしてゆっくりと振り返る。


「大丈夫だよ」


答えた黄瀬に表情はなかった。


「そうか、今日はどうしたんだ?」

「綺麗でしょ」


黄瀬は目線を空に向けていう。
そこには変わらず赤い夕焼けが広がっていた。


「オレもこれになりたいな」


そういって空に手を延ばす。




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