悪ガ蔓延ル世界
□ないものねだり
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理由なんて無い
意味なんて無い
ただ、目を惹いたから
欲しいと思ったから
私は
【 ないものねだり 】
最初はほんの些細な拾い物から始まった。
夕暮れ、下校途中、普段から人通りの少ない住宅街。
長い黒髪の喪服姿の女が何かを探しているのか、地面を見ながらウロウロしていた。
関わるのも煩わしい。
そう思って違う道を行こうとしたが、一瞬早く、女が私の存在を視認してしまった。
「返して!私の指輪!!!」
そう迫り寄ってくる女の顔は青白く、夜道で出逢っていたら違う物と間違われるほどやつれていた。
「ゆ、指輪…?」
女の気迫に押されながらも、私はそう問い返していた。
「白いガラスが埋め込まれたオモチャの指輪で…とても大切なものなの!!返してよ!!!」
「そ、そんな物、私は拾っていないし、見てもいない。」
実際そんな指輪、見た覚えがない。
第一、玩具の指輪など拾ってなんの得があるのだ。大方、光り物を好む猫か烏にでも持ちさらわれたのだろう。
女は納得がいかないのか私をジロジロと見てから、
「そう…もうここには無いのかしら……」
と謝ることもせずブツブツと何かを言いながらフラフラと私を通り過ぎて歩き去った。
「…何だったのだアレは………ん?」
女が去った後を呆然と立ち尽くしていたら、女が歩いて行った道の途中。
夕日に照らされキラリと光る物がひとつ。
拾い上げるとそれは、鉄のリングに5つの小さなガラス玉が埋め込まれた、安物にしか見えない小さな指輪だった。
その後、あの女と出会うことは無かった。