イブリスの仮面

□ペルソナQ
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中止になった文化祭の、本来なら最終日となる筈だった日の影時間。
タルタロスのエントランスで突如発生した暗転の、更に急降下するエレベータールームでの混乱の後、アマネ達は何処かの学校と思われる校舎の、文化祭でにぎわう廊下へと立っていた。
この訳の分からない現象にはシャドウが関わっているのではという考えを元に、ルイス・キャロルによるアリスの世界を模したような模擬店を見つけ、模擬店の前で出会った記憶の無い善と玲という二人と共にその中へ潜入し、シャドウのとの戦いで苦戦していた最中。
何故かポーズを付けながら現れたこの学校の制服を着た集団の中に、無表情の仮面を着けた者がいることにアマネは違和感を覚えた。仮面でその者の顔は分からないが、体格や姿勢に既視感がある。
弱くとも数の多いトランプ兵の姿をしたシャドウの、引き付け役を買って出てくれた彼らの中でも、その仮面の生徒だけは異端だ。視線を潜り抜けてきた数だけならこの場で随一だろうアマネだからこそ分かる、非常に『戦い慣れ』した姿。
その正体が分かったのは、女王型シャドウを倒した後。自ら仮面を外した姿にアマネは絶句する。


「……お、れ?」


この学校の制服を着た『アマネ』の姿には、その彼と一緒に居た仲間達も、アマネと一緒に居た有里達も驚いていた。唯一驚いていないのは、アマネをよく知らない善と玲、それから当の『アマネ』だけだ。
『アマネ』は頭の仮面の位置を直しながら、どうしようもないとばかりに苦笑する。それを見て、アマネは『アマネ』がこの現状の理由や、他にも何か知っているのだろうことを悟った。伊織が何か言おうとするのを制してアマネはその『アマネ』へと近付く。
少しアマネよりも背が高いが、それは将来伸びるであろう身長よりも低いから、まだもう少し伸びるに違いない。制服の上着の下へは、召喚器が隠されているらしく少し膨らんでいる。

「……あー、喋っても平気かぁ?」
「……平気だよ。コレがあればどっちかが消えるなんて事も無ぇ。『白蘭』は覚えてるかぁ?」

短絡的な単語へアマネは『アマネ』の言いたい事を理解した。だがそれでは収まらないこともある。『アマネ』は目尻を下げて微笑むと、アマネの両肩へ手を伸ばして耳へ顔を寄せてきた。
後ろからは岳羽や山岸から小さな叫びが上がる。『アマネ』と同じ制服を着た学生達からも。

「ここでの事は、俺も含めて全員忘れる。後で思い出すのは俺だけだぁ。だからコイツ等の前でも思い切り暴れていい」
「え――」

返す言葉の無いアマネから一歩分離れた『アマネ』は、理解出来ないでいるアマネを見つめて微笑むと、おもむろに腰へ装着していたナイフベルトからナイフを取り出し、アマネが装備していた短剣と交換する。
ナイフは本来ここにあるはずの無い、弟と親友達から貰ったものだ。
どうしてこれが、とアマネが追求する間もなく、『アマネ』はアマネの左手首に嵌められた腕輪を優しく撫でる。その腕輪だってナイフ同様ここにある筈のないものだった。





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