イブリスの仮面

□ペルソナ4
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元の人の姿に戻ったシャドウに、アマネはまずは一段落だなと息を吐く。警戒はもちろん解いていなかったがシャドウからの敵意は感じられなくなっていた。
そんなシャドウに、里中が話しかける。

「アンタは……あたしの中にいたもう一人のあたし……って事ね。ずっと見ない振りしてきた、どーしようもない、あたし……」

友人を羨むのはどうしようもないことなのだろうか。みんな違ってみんないいと歌った詩人だっているのだ。
『あの人のようであればいいのに』と思うことをアマネは悪いとは思わない。劣等感なんてずっと抱き続けている。そんな自分に比べれば里中の天城に対する嫉妬なんて小さく可愛いものだ。
そんな小さく可愛いものでも里中自身には許せなかったから、シャドウが生まれてしまったのだろうけれど。

「でも、あたしはアンタで、アンタはあたし、なんだよね……」

静かにシャドウが頷く。そうして一瞬嬉しそうに微笑むシャドウに、アマネはやはり何とも言えない気分で目を逸らした。
アマネはイブリスにあんな顔をさせられただろうか。未だに諦めの悪い自分を、あの“もう一人の自分”は笑ってくれるだろうかと不安になる。
里中のシャドウがペルソナへと昇華された。
昇華されたペルソナを手に入れた里中が振り向く。

「……あたし、その、あんなだけど……でも、雪子の事好きなのはウソじゃないから……」
「バーカ。そんなの、分かってるっつの」

花村がそう言えば、里中は安心したかのようにその場にへたり込んだ。この空間に居続けた事による疲労と、シャドウと向き合った事による消耗などが重なったのだろう。
見れば座り込んでしまった膝が笑っている。このまま天城を探し続けるのはやめた方がいい。

「一度戻って体勢を整えよう」
「そうだな。里中を休ませないと」
「か、勝手に決めないでよ! あたし、まだ――きゃあ!?」
「はいはい無理はしねぇことぉ」

里中が喋っている途中で槍をクマに渡し、里中を抱き上げた。何とも可愛い悲鳴を上げてアマネにしがみついた里中に、鳴上と花村が目を丸くする。
いや、目を丸くしたのはアマネの行動のせいか。

「ちょ、ちょっと!?」
「天城さんは絶対助ける。でもその前に里中さんまで倒れたら元も子も無ぇだろぉ? 一緒に助けるなら、足手まといはいらねぇよ」

少々厳しく言えば、抱き上げたことで顔の距離が近い里中は激しい抵抗は止めた。

「で、でも……抱き上げる必要は」
「年下は年上に甘えときなさい。どうせ今は膝が震えて歩けねぇんだろぉ?」
「う……」
「いや、だからってよく躊躇無く出来るなそういうコト」





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