イブリスの仮面

□ペルソナ3
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斑鳩 周。初めて転生以外の経験をしたようである。
体感年齢は大学入学直前だったはずなのに、とある神的現象によって二年ほど若返っていた。だが精神年齢は既に大学どころか人の一生を数回過ごせる程度だった為、驚いたと言えば嘘になる。
けれども流石にショックではあったし、同時に泣きたくなった。
やっと受け入れることの出来た出来事があったのに、戻ってきた年はその出来事が起こる年だったからだ。
過去へ戻って来たという事は、確実にこれからその出来事が起こるという事で、根本的な始まりは十年前であるから今更アマネの力だけで阻止する事も出来ず、その事を悟った時は落ち込んだ。
落ち込んで、悩んで涙を零しながら吐いて。少しだけスッキリしてから気付いたのである。


最悪のシナリオの結末は無理でも、何かを変える事は出来るのではないか、と。


高校入学にあたり一人暮らしの為の引越しとか色々やることがありはしたが、それと平行して自分が経験したその出来事を出来るだけ鮮明に思い出し、改善策を導き出し、世間一般的に春休みと言われる時期を終えた。
便宜上『一度目』と呼ぶことにした過去とは違って始業式当日から高校へ通い、校舎の作りを覚えようとする新入生のフリをして学校を歩き回り、どうしても助けたいと、救いたいと思っているあの人を探す。
そこでアマネの計画はまず頓挫した。
あの人が居るはずの教室の、あの人が居るはずの席には、見たことも無い女生徒が座っていたのである。
思わずアマネはその場から逃げ出した。
一体どういう事かと、過去へ戻ってきたからか再び使えるようになった、アマネがアマネとして生まれる前から使える特殊能力を駆使し、たどり着いた答えは簡単ながらも残酷だった。

「……へいこう、世界」

平行世界。幾重にも連なる些細な相違点を論点とするなら違う世界。つまりは異世界だ。建物も社会情勢も常識も何もかもが同じだというのに、この世界にはあの人が居ない。


あの人が居ないのであれば救えるわけもなかった。


運命というものがあるなら三度目の残酷さだと思いながら、アマネがそれでも狂ったりせずにいられたのは、ひとえに左手から灯る炎のお陰だ。
過去に戻ろうが平行世界へ飛ばされようが、何があってもその炎は、炎を通じて思い出す友人達はアマネの大切なものである。
そうして落ち着きを取り戻して、悔しい気持ちは消えないままでも考え直した。


あの人が救えなくても、この世界の『あの人達』が最悪へと進まないように。


アマネが悲しいままでも、この世界の『あの人達』が悲しみを減らせるように。







やり直すのではなく、変えてやろう。






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