イブリスの仮面

□ペルソナ4
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「……じゃあ、第二ボタンください」
「お前は女子か」

顔を上げた月森の発言に、律儀に突っ込みを入れる花村ももう見れないのだろう。それにしても第二ボタンか、と自分の制服を見下ろす。
第二ボタンは心臓に一番近いボタンだ。だから色々ジンクスが生まれているのだろうが、一番ポピュラーなのは『再び会える』というやつだろうか。
通常であれば女子が意中の男子のそれを貰うという筈だが、その辺は男同士だとどうなっているのだろう。そう思いながらボタンを引き千切って手の上で転がした。
月光館学園のブレザーはファスナーだったなと、どうでもいいことを思いながら月森の手を掴んで手の上へボタンを落とす。


「お前と会えて良かったよ、孝介」


こういう時ぐらいと思って初めてした名前呼びに、月森は不思議そうに目を瞬かせた後、再び涙腺が壊れたとばかりにボロボロと泣き始めた。驚く花村や久慈川にも構わず泣いている月森に、俺も湊さんへ向けてそういう風に泣きたかったと思う。
泣いておけば良かった。あの人の前でもっと。

「あー、ほら、そろそろ写真撮りません? ワタシデジカメ持ってきましたから!」
「あ、オレも持ってきてるぜ。へへっ、先輩一緒に撮りましょ!」

久慈川と花村が空気を変えるようにデジカメを取り出す。天城や里中も賛成して俺の両隣に移動し、ピースサインをするのを久慈川が写した。直斗や巽も一緒に撮ったり、それぞれの携帯で俺とのツーショットを撮ったりと忙しい。
どうにか月森が泣き止んだところで、自分の携帯を花村へ渡した。カメラ機能は起動してある。

「何枚撮ります?」
「一枚でいい。ホラ月森、笑えぇ」
「……こうすけ」
「はいはい。今日だけだからなぁ孝介」

花村に撮ってもらった写真の中で、月森だけではなく俺も笑っていた。今にも泣きそうな下手くそな笑みで、嗚呼何だ俺も泣きそうなんじゃないかと呆れる。
けれども俺は先輩だから、月森達の前で泣こうとは思わないし、泣いてはいけないと思う。その代わりに盛大に月森が俺との別れを悲しんでくれているのだ。それでいい。

「デジカメで撮った写真は、後でプリントアウトして渡しますね」
「あ、クマのこと忘れてたわ」
「じゃあ今からクマの奴も呼ぶッスか?」
「というかジュネス行けばいいじゃん」
「あの、斑鳩先輩。第二じゃなくていいので僕もボタン貰っていいですか?」
「あー、直斗クンずるいっ。センパイワタシにも!」
「じゃあオレも!」
「もう好きなだけ持ってけぇ……いや孝介、自分で脱ぐから」






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