イブリスの仮面

□ペルソナ4
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クリスマスが終わり、新年が来て、受験が終わり。
桐条の勧めで選んだ大学に合格した。桐条はどうも俺を自分の企業グループに入れたがっている節がある。完全に油断は当然出来ないが、就職先がすでにあると思っていいのは気楽だ。好意に甘えられれば大学卒業後そのまま就職。出来ればアイギスのいる研究職にいきたい。
そうして来たる三月五日。奇しくもあの時と同じ日に、八十神高校の卒業式が行なわれた。
詰襟までキッチリと閉められた制服に身を包み、一つ上の二年前眠りについたあの人は、もう貰うことの出来ない卒業証書を受け取る。
門出を祝う声に別れを悲しむ声。明日になっても会えるし、携帯があるからいつでも連絡が取れるというのに、溢れる涙が止まらないでいる。
俺がじゃない。月森がだ。

「そんなに泣くなよ孝介。ほら、先輩困ってるぞ」
「……っう……ふ、ぅ」

手の甲や袖口で涙を拭うものだから、月森の目元は赤いし袖もグチャグチャになっている。見かねた天城がハンカチを差し出しているが、それを受け取るのも億劫らしい。
かくいう天城や、里中や久慈川、直斗まで涙が滲んでいる。涙ぐみはせずとも巽も鼻を啜っているし、花村だって目尻が下がっていた。
そんなに泣くほど慕われていたのかと、泣かれている当の本人だけが信じられないでいる。
最近は見開き型もあるそうだが、伝統的とも言える円筒の卒業証書入れを片手に、泣いているこれだけの人数の後輩達を宥めているのは多分俺だけだ。

「せっかくの門出なんだから、泣くより笑ってくれよぉ」
「っ、無理、です……」
「なんでぇ?」
「だ、だって、先輩……いなく、っなる、し」
「死に別れる訳じゃねぇんだぁ。いつだって会えるだろぉ? ん?」

よしよしとクマへやるように月森の頭を撫でれば、月森は顔を隠す様に俯く。月森だけが、俺から発せられた今の言葉の重みを理解したんだろう。

「で、でもセンパイ、春には大学行くんで八十稲羽出て行くんでしょ?」
「うん。四月にはいなくなるけど、それは月森だって同じだろぉ?」
「やっぱり寂しいですよ。月森君もそうだけど、先輩も居なくなっちゃうなんて」

彼等にとっては俺と月森の両方が居なくなるということだ。けれどもそれは、俺と月森からしてみれば皆が居なくなるということでもある。より寂しいのはどちらか、なんて競うつもりは無いが、そうなると一番寂しさを感じているのは月森だろうと思った。
嗚呼、だからこんなに泣いているのかと納得する。

「……仕方無ぇなぁ。じゃあ月森、こうしよう。お前が泣き止んだらお前の願いを聞いてやる」
「……願い?」
「Si 何でもいいせぇ。愛家で奢ってとかビフテキ奢ってとか。何だったら八十稲羽出てくまで毎日遊べってんでもいい」






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